研究課題/領域番号 |
18KK0368
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
山田 知明 明治大学, 商学部, 専任教授 (00440206)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | 動学的一般均衡理論 / 金融政策 / 財政政策 / 所得格差 / 資産格差 / ニューケインジアン |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、動学的一般均衡(Dynamic Stochastic General Equilibrium)理論に基づいて、財政・金融政策と日本における経済格差の関連性について定量的な分析を行うことにある。特に、「金融政策ショックが労働所得格差に影響を与える」というInui, Sudo and Yamada (2017, BIS)で得られた結果にフォーカスし、財政・金融政策が所得格差に与える影響についてDSGEモデルを異質な個人・企業が存在する形に拡張をした上で、理論及び実証分析を行う。 従来の動学的マクロ経済モデルでは、多くの場合、代表的個人モデルを用いている。代表的個人モデルから様々な豊かな政策的が得られたことは事実であるが、一方でいくつかの問題も指摘されている。例えば、教科書的には限界消費性向(Marginal Propencity to Consume)の大きさは財政・金融政策を決定する上で重要であるが、MPCは家計の所得や資産状況によって異なる。すなわちMPCのバラツキ具合に応じて、いわゆる景気対策の有効性が変わってくる。加えて、財政・金融政策が格差に影響を与えるのであれば、そこには内生性の問題も生じることになる。これらの点を整理するためには、異質な個人・企業が存在し、財政・金融政策と格差の間のインタラクションが存在するモデルが必要となる。現在、米英の個票データを集めると同時に、HANK(Heterogeneous Agent New Keynesian)モデルに基づいてInui, Sudo and Yamadaモデルを拡張している段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、Inui, Sudo and Yamada (2017,BIS)で得られた研究成果を発展させる形で行う予定である。2008年の世界的金融不安以降、世界的に格差に対する関心が高まったことから、多くの国で様々な側面から経済格差の研究が行われてきた。その中で、財政・金融政策といった短期の経済政策と経済格差の関係についても、米国や英国などの個票データを用いた分析が行われている。本研究プロジェクトでは国際共同研究を進めるため、英国のデータを用いた研究を行っているQueen Mary University of London(QMUL)を中心とした英国の研究者達と蜜に連絡を取りながら、日英(+米)比較を行う。 2020年1月にUK Visaを取得して、受け入れ先であるQMULの研究者と調整を進めていて、QMUL以外のロンドンの研究機関、大学の研究者たちともコンタクトが取れる状況にしてきた。また2019年8月にマンチェスターで開催された欧州経済学会の後、ロンドンに立ち寄って、受け入れのメンターである千賀達郎助教授と打ち合わせを行った。 当初、2020年4月1日に渡英をしてすぐに研究を開始する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、渡英を延期している。
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今後の研究の推進方策 |
当初、2020年4月1日に渡英をして、QMUL及びInstitute of Fiscal Study、London School of Economicsといった研究機関、大学の研究者とコンタクトを取りながら研究を実施する予定であった。すでにUK Visaも取得済みで、受け入れ先であるQMULの研究者と調整を進めていた。しかし、3月末から新型コロナウイルス感染拡大に伴い、ロンドンがロックダウンされた影響を受けて、渡英を延期している。状況が落ち着き次第渡英する予定であるが、今後も大学や研究機関へのアクセスが厳しく制限される可能性があり、現地の研究者達とメールやZoomなどで連絡を取りながら、日本でできる限りの研究準備を進めている状況である。具体的には、高速な科学技術計算言語であるJuliaを用いてHANKモデルをコーディングすると同時に、世界中の経済格差と財政・金融政策の関係性に関する論文についてHANKモデルを中心にサーベイを行っている。また、現在進行中の新型コロナウイルス問題も経済格差との関係が強く指摘されているため、中長期的な政策対応についても織り込むことが出来ないか検討している。
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