研究課題/領域番号 |
18KK0368
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
山田 知明 明治大学, 商学部, 専任教授 (00440206)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2023
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キーワード | 動学的一般均衡理論 / 金融政策 / 経済格差 / 企業の異質性 / NTA / SNA |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、基課題において執筆途中である"The Effects of Monetary Policy Shocks on Inequality in Japan"で得られた研究成果を発展させる形で金融政策と経済格差の関係性について定量分析を行うというものである。1980年代から1990年代後半にかけて、金融政策は勤労世帯の給与所得格差に影響を与えていた一方、その影響力は時間とともに弱まっている事が明らかになった。先行研究によると米国や英国では金融政策は、income composition channelを通じて所得格差を増大させ、それが消費格差拡大にもつながっている。しかし日本では給与格差にのみ影響を与えており、消費格差拡大にはつながっていないことから、政策的含意が大きく異なる。観察されたファクトを理論的に説明するため、賃金格差が説明できる企業の異質性(firm heterogeneity)を含んだ動学的一般均衡モデルを構築している。鍵となるのは労働市場のフレキシビリティと価格粘着性であり、金融政策ショックはセクター間の価格粘着性のち外を通じて賃金格差に影響を与える。研究成果の途中経過は2023年3月に渡英した際にケント大学で報告を行い、様々フィードバックを得た。加えて、アリゾナ大学・東京大学の市村英彦教授との共同研究として、国民移転会計(National Transfer Account)の考え方に基づく世代間の所得分配を考慮したライフサイクルモデルを構築し、日本における富の世代間分配とその移行過程について、政策評価のツールとなるモデルを構築している途中である。また、同時並行で行っている日本の所得・消費・資産格差の実証分析についてはデータブックとして英文の書籍化作業を行っている途中であり、その途中経過はDiscussion Paperの形で公表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定では、2020年4月に渡英をして2021年3月までの1年間で共同研究を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響から2020年4月の渡英が困難になり、一時的にロックダウンが解除された8月末に渡英をした。その後もイギリス国内で第2波、第3波の感染症の波が襲ったことから度々ロックダウンを繰り返し、滞在期間の8ヶ月間のうち累計で5ヶ月以上がロックダウン期間となってしまった。帰国後も英国の研究者グループ達とコンタクトを取り続けたが、2021年〜2022年も引き続き新型コロナウィルス感染症の影響を見ながらの作業となった上、ロシアのウクライナ侵攻に伴って空の便が一時的に混乱したこともあり、主にデータの面でスケジュールが当初の予定から大幅に遅れることになった(使用するデータは家計に関する個票データであり、プライバシーの問題から、使用が現地に限られるなど制限される)。ようやくコロナと戦争の影響が安定してきたことから、2023年3月に2週間程度英国に滞在して、Kent大学で報告を行ったほか、University of London Royal Holloway校やSurrey大学の研究者と経済格差と金融政策の関係性について、研究報告及び議論を行った。また、2022年夏にはRoyal Holloway校の研究者に、2023年4月にはKent大学の研究者に研究報告をしていただいた。加えて、研究概要にも記載したようにアリゾナ大学の市村英彦教授との共同研究も開始しており、こちらは主にオンラインでコンタクトを取りながら共同研究を進めている。現在は米国のデータの整理を行っている。当初の研究計画から約2年遅れているが、ようやく英国との行き来が回復してきたため、2023年度は再度渡英をして集中的に研究活動を推し進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で記載をしたように、本研究課題は新型コロナウィルスの蔓延に伴う国際的な人の移動の制限の影響を強く受けた。その後もロシアのウクライナ侵攻の影響を受けて、申請時に記載した渡航先であるイギリスとの通年での一年間の在外研究及び高頻度での行き来は非常に困難な状況が続いた。2022年前半までは共同研究の打ち合わせや学会報告もオンラインばかりで制限された状況が続いていたが、後半頃から脱コロナの兆しが見え始め、行き来も緩和された事から対人での研究活動が復活してきた。本研究課題は研究計画調書に記載したように英国(と日米)の個票データを用いた分析を行う予定であったが、プライバシーの問題から強い制限を受ける秘匿データは直接現地に行って取り使う必要があるため、当初の計画からデータ部分に関しては強い制限を受けている。この点を補うため、日本側のデータ(主に総務省が集めている「家計調査」及び「全国消費実態調査」)をより積極的に活用することでデータ不足を補完する計画である。その成果の一部は2023年度にDiscussion Paper(東京大学の北尾早霧教授と共同研究)として公表予定で、英文での書籍化作業も進行している(すでに出版社と契約済みであるが、データ取得の遅れからこちらも作業が遅延している)。また、2023年度中に、まだ人選などは計画段階であるが、Heterogeneity in Macroeconomics Conferenceという形での国際コンファレンスを検討している。
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