研究課題/領域番号 |
18KK0373
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研究機関 | 立命館アジア太平洋大学 |
研究代表者 |
吉川 卓郎 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 教授 (30399216)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | ヨルダン / 権威主義体制 / 王制 / 社会運動 / 部族 / イスラーム / 安全保障 |
研究実績の概要 |
①著作:査読付き学術誌に論文を2本投稿し、単著の学術書1冊を刊行した。投稿論文で注力したのは、ヨルダンにおける政府とサブステートアクター間の関係を、国際政治学における安全保障化の議論から分析することであった。1本目の論文では、理論・方法論に重きを置いた内容とし、『国際安全保障』に掲載された(令和2年6月)。2本目の論文は、同様の題材を扱いながらも、問題の歴史的経緯、また本研究の主要な研究対象である部族問題にも注目した英語論文である。これを令和2年11月に『Contemporary Review of the Middle East』に投稿し、令和3年4月に掲載が決定した。学術書については、本研究課題の議論を多く取り入れた単著『ヨルダンの政治・軍事・社会運動 倒れない王国の模索』(晃洋書房)を令和2年12月に刊行した。同書には、本研究課題の掲げる内容の多くが含まれている。 ②研究発表:世界最大規模の中東研究団体のひとつである北米中東学会(MESA)の年次大会に出席し、本研究に関する研究発表を実施した。同学会に提出したペーパーは、上記①の2本目の論文の下地となった。 ③現地調査:ヨルダンでは新型コロナウィルスの感染拡大が深刻であり、残念ながら、当初予定していた現地調査のほとんどを断念する結果となった。具体的には、令和2年6月の渡航に向けて前年度より準備を進めていたが、現地受け入れ機関であるヨルダン大学での客員研究員資格申請が凍結され、同10月になると現地の感染爆発が深刻化したことから、長期の訪問・滞在は不可能となった。一方、同11月にヨルダン総選挙という非常に大事なイベントがあったため、約2週間という短い期間で渡航し、現地の様子をつぶさに観察できたのは大きな収穫だったと考えられる。同選挙で得られた知見の詳細については、今後の研究成果に活用したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前述のとおり、著作については当初計画以上の成果を得られた。しかし当該年度の研究の柱ともいえる現地調査については、当初予定していた約半年間の調査計画がコロナ禍で実施できなかった影響は甚大である。具体的には、ヨルダン大学とフサイン・ビン・タラール大学での客員研究員申請プロセスが凍結されたため、交付申請書に記載していた計画の全て(①地方議会の文献・資料調査(アンマーン市を拠点とした活動)、②地方政治家や名望家、それらの支持者への訪問(アンマーン市はじめ、国内各所)、③ヨルダン政府・軍関係者や地方部族有力者への訪問(アンマーン市ほか)が実施できなかった。研究の性格上、これらはオンライン取材等で代替できるものではなく、対面訪問の機会が失われた損失は大きい。 令和2年9月頃までは現地の感染状況が深刻でなかったため、比較的人との接触が少ない上記①が実施できないか模索したが、そもそも在京ヨルダン大使館が新規ビザの発給を受け付けない状況であり、また現地渡航時にビザを取得したとしても、訪問予定先が来客を受け入れないことが予想されたことから、調査を断念した次第である。なお同年11月以降は全土がロックダウンに入り、国内移動すら制限を受ける状況が続いていることを付記しておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に実施できなかった現地調査については、以下の通り方法を変更したうえで、令和3年度での実現を目指す。令和2年度の当初計画では、サバティカルを利用した、半年間にわたる継続的な現地滞在に基づく2か所(アンマーン、南部)での調査を考えていたが、(サバティカルのない)3年度は同様の手法がとれないため、全体の調査期間を短縮し、勤務先の夏季・春季休暇期間(8-9月、2-3月)に合わせた2回の短期調査実施を計画することとする。 まず夏季の調査では、再びヨルダン大学の客員研究者資格を申請し、同大学を拠点とした①地方議会の文献・資料調査、②地方政治家や名望家、それらの支持者への訪問を実施する。春季の調査では、南部を拠点に、③ヨルダン政府・軍関係者や部族有力者への訪問・取材を実施する。 これらの研究のアウトプットの方法について。夏季の調査の成果を、①韓国中東学会(KAMES)大会(令和3年10月、ソウル市)、②中東アフリカ学会(ASMEA)大会(令和3年11月、ワシントンD.C.)にて発表することを目指す(①②とも申し込み済み)。また、夏季・春季の調査成果を含めた本研究全体の成果を、令和4年以降をめどに英書(共著)にまとめる計画を進めており、現在、共著者らとともに出版社との調整を行っている。コロナ禍は依然としてヨルダン社会に深刻な影響を与えており、上記調査計画についても先行きは不明であるが、研究成果の公表については、どのような状況となっても、柔軟に遅滞なく進めることを目指す。
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