研究実績の概要 |
近年、物性物理学の分野において、有機固体結晶中の伝導電子が、強い電子相関と幾何学的フラストレーション効果により、ランダムな電荷分布・電荷配置のまま凍結した電荷ガラス状態が見出され、大きな注目を集めている。電荷ガラス状態では、巨大非線形伝導や負性抵抗領域における自発的電流振動現象などが観測されており、X線構造解析から示唆されるナノクラスター電子構造との関連性が議論されている。そこで本研究では、電荷ガラス物質における「非自明な巨大非線形・非平衡応答」と「実空間でのナノクラスター電子構造」の関係を明らかにすることを目的として、国際共同研究のもと、走査型近接場光顕微鏡を行い、電荷ガラス状態における電子構造のナノスケール実空間観察から、強相関電子系における電子相関を起源とした本質的不均一構造がもたらす非自明かつ巨大な非線形・非平衡現象の物理的起源を解明することを目指している。 当該年度は、フランクフルト大学とドレスデン工科大学に滞在し、それぞれノイズ分光測定および走査型近接場光顕微鏡測定を行う予定であったが、コロナ禍のため、滞在を中止した。代替策として、オンラインを有効活用し、フランクフルト大学のグループと密接に連携をはかり、三角格子のフラストレーションの強さが異なる一連の電荷ガラス物質のノイズ測定を行い、論文として公表した (Involvement of structural dynamics in the charge-glass formation in molecular metals, T. Thomas et al.,Phys. Rev. B 105, L041114 (2022))。本研究成果は、電荷ガラスが構造ガラスと密接な関係にあることを示すものであり、電荷ガラス形成機構の解明に重要な知見を与えるものであると考えられる。
|