研究実績の概要 |
近年、物性物理学の分野において、有機固体結晶中の伝導電子が、強い電子相関と幾何学的フラストレーション効果により、ランダムな電荷分布・電荷配置のまま凍結した電荷ガラス状態が見出され、大きな注目を集めている。電荷ガラス状態では、巨大非線形伝導や負性抵抗領域における自発的電流振動現象などが観測されており、X線構造解析から示唆されるナノクラスター電子構造との関連性が議論されている。しかし、ナノメートルサイズの電荷クラスターを実空間で直接観察した例はない。そこで本研究では、電荷ガラス物質における「非自明な巨大非線形・非平衡応答」と「実空間でのナノクラスター電子構造」の関係を明らかにすることを目的として、国際共同研究のもと、走査型近接場光顕微鏡および誘電ノイズ測定を行い、電荷ガラス状態における電子構造のナノスケール実空間観察から、強相関電子系における電子相関を起源とした本質的不均一構造がもたらす非自明かつ巨大な非線形・非平衡現象の物理的起源を解明することを目指している。 当該年度は、ドイツのフランクフルト大学に半月滞在し、X線照射した電荷ガラス物質θ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4のノイズ分光測定を行った。その結果、X線により導入された欠陥が電荷ガラス化を促進させることを明らかにした。また、三角格子のフラストレーションの強さが異なる一連の電荷ガラス物質のノイズ測定を行い、論文として公表した ("Comparison of the charge-crystal and charge-glass state in geometrically frustrated organic conductors studied by fluctuation spectroscopy", T. Thomas et al., PRB 105, 205111 (2022))。
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