近年、物性物理学の分野において、有機固体結晶中の伝導電子が、強い電子相関と幾何学的フラストレーション効果により、ランダムな電荷分布・電荷配置のまま凍結した電荷ガラス状態が見出され、大きな注目を集めている。電荷ガラス状態では、巨大非線形伝導や負性抵抗領域における自発的電流振動現象などが観測されており、X線構造解析から示唆されるナノクラスター電子構造との関連性が議論されている。しかし、ナノメートルサイズの電荷クラスターを実空間で直接観察した例はない。そこで本研究では、電荷ガラス物質における「非自明な巨大非線形・非平衡応答」と「実空間でのナノクラスター電子構造」の関係を明らかにすることを目的として、国際共同研究のもと、強相関電子系における電子相関を起源とした本質的不均一構造がもたらす非自明かつ巨大な非線形・非平衡現象の物理的起源を解明することを目指している。 当該年度は、ドイツ(フランクフルトおよびドレスデン)に合計約3ヶ月間滞在し、電荷ガラス形成物質θ-(BEDT-TTF)2MM'(SCN)4のノイズ分光測定および熱膨張率を行った。その結果、BEDT-TTF分子の末端エチレン基がアニオン分子であるMM'(SCN)4に拠らず100 K付近で構造ガラス転移を示すことを明らかにした。今後、電荷ガラス形成とBEDT-TTF分子の末端エチレン基の構造ガラス転移の関係を明らかにすることが、本物質で観測される不均一構造の理解に繋がると考えられる。 なお、研究実施時期が一部コロナ禍と重なり、ドイツへ渡航ができない期間があったが、その間はオンラインツールを有効活用することで、ドイツの研究グループと密接な連携を図り、実験を継続して行ってもらった。実際の渡航期間は180日未満であったが、これらの期間を考慮した上で、実質的な渡航期間は180日以上に相当するとして、本研究を完了した。
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