研究課題/領域番号 |
18KK0376
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡本 敦 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (40422092)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | 黒鉱 / 黄鉄鉱 / 結晶方位 / シリカ / 蛇紋岩 |
研究実績の概要 |
本年度はユトレヒト大学とカールスルーエ工科大学に滞在し、岩石-10134;流体相互作用によって形成される組織の詳細な解析を行う予定であった。しかし、コロナ禍において、渡航ができなかったために、共同研究者らとどのように効果的に共同研究を進めるかの議論を行い、本年度は、主に黒鉱鉱床のチムニー(熱水噴出孔に形成される構造物)に産する、非常に特徴的な黄鉄鉱の組織の解析を行った。この黄鉄鉱粒子は、花岡鉱山で採取されたものであり、球状の形態をしており、中心部分に球状の穴が空いている。ユトレヒト大学で、詳細な結晶方位解析を行ったところ、興味深いことに<110>の方向に成長した針状結晶が放射状に成長していることが明らかとなった。この特徴的な組織は海底熱水鉱床において粒子が浮遊しながら成長したことを意味しており、おそらく、熱水中のバブル表面において黄鉄鉱のナノ結晶が(100)面で吸着し、外側に成長したのではないかと考えられる。さらに、熱水噴出孔を模擬した条件での析出実験を行い、黒鉱のチムニーでも観察される、両錐石英の生成に成功した。同条件での、黄鉄鉱の生成を進めている。また、蛇紋岩については、高エネルギー研究加速器機構における蛇紋岩のFeの価数分析とナノCTの解析を進め、地殻-マントル境界のダナイトにおいて大量の磁鉄鉱が生成していることを明らかにし、磁鉄鉱の形成条件を制約する水熱実験を始めている。 また、将来的な共同研究を推進していくために、東北大学大学院環境科学研究科とユトレヒト大学地球科学科との間で、学生交流、共同研究のための部局間協定の締結するためのプロセスを進め、ほぼ完了している。これにより、コロナ禍において先行きが不透明な中、今後、お互いの学生指導も含めながら、継続的な交国際共同研究を行う足がかりを得たと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍で渡航ができない、それぞれの国においても実験・分析もしにくいという状況の中で、黒鉱の黄鉄鉱粒子に着目することで、試料をユトレヒト大学に送って結晶方位の詳細な解析を行ってもらい、綿密なオンラインミーティングでの議論を重ねることで、効果的に共同研究を進めることができた。今回の黒鉱鉱床の球状黄鉄鉱は、当初、計画していた組織ではないが、予想以上に興味深い組織をしており、地球科学にとどまらず、材料科学的にも非常に興味深い組織であり、インパクトが大きいと期待できる。シリカ析出実験、高エネ研における蛇紋岩の組織とFe(III)分布の解析は国内において順調に進んでおり、将来的な共同研究の議論を進めている。カールスルーエ工科大学との石英成長に関する研究については、実験の解析を進め、論文執筆を行っている段階である。また、東北大学大学院環境科学研究科とユトレヒト大学地球科学科との間で、学生交流、共同研究のための部局間協定を締結するためのプロセスを進めた。これは、研究そのものではないが、継続的に共同研究を発展させる礎を築いたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
黒鉱の球状粒子については、EBSD, 透過型電子顕微鏡やFESEMなどを用いたナノスケールの解析を進め、ナノスケールの核形成メカニズムへの制約を進める。同様の試料で観察される両錐石英の産状と合わせながら、海底熱水鉱床のチムニー内部での鉱物粒子成長条件の考察を進める。石英粒子と黄鉄鉱が同時に浮遊しながら形成条件を探索する水熱実験を実施する。オマーンの地殻-マントル境界のFe(III)の分布、磁鉄鉱分布と微細組織解析を継続して行い、水素の生成と空隙形成に関する検討を行う。また、三波川帯の断層岩、交代作用の岩石の微細組織の解析を行う。鉱床、蛇紋岩、変成岩などの様々な岩石-流体相互作用の微細組織を解析することで、地殻、マントルバイブにおける鉱物形成、置換反応、溶解・沈殿プロセスにおける流体の役割を明らかにする。 コロナ禍による渡航制限が現在では先行きが見通せず、また、制限が解除になっても、学内業務との兼ね合いから、長期滞在は難しい。現実的なところとして、本年度は、試料をやり取りし、OnlineでのMeetingによる遠隔での共同研究を基本としながら進める予定であるが、チャンスがあれば短期間でも訪問し、解析や議論を行いたい。
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