研究課題/領域番号 |
18KK0376
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡本 敦 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (40422092)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2022
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キーワード | 鉱物脈 / 蛇紋岩 / ナノ組織 / 空隙 / 岩石ー水相互作用 / 断層岩 / 変質作用 |
研究実績の概要 |
オマーン国における陸上に露出したマントル岩体(オマーンオフィオライト)の地殻ーマントル境界の岩石を用いて、岩石ー流体相互作用の解析を中心に進めた。地殻ーマントル境界から高温蛇紋石であるアンチゴライトの脈が100メートル以上にわたって分布していること、また、その脈にはブルース石の反応帯を持っていることを明らかにした。高エネルギー加速器研究機構(kek)でのX線CT分析により、その反応帯にはワームホール組織が発達していることを見出した。さらに、ユトレヒト大での透過型電子顕微鏡(TEM)やFIB-SEMによるナノスケールの組織解析により、流体の流入によりシリカが溶脱して、のちのステージでクリソタイルという低温型蛇紋石ができたことを明らかにした。溶液化学計算と拡散モデルにより、この脈が形成した時間と流速を明らかにして、現在の沈み込み帯の地震活動と比較しながら、マントルウェッジにおけるepisodicな流体移動について明らかにすることができた。これは、メートルスケールからナノスケールまでの岩石ー流体相互作用の作り出すマルチスケールの構造、組織観察からなる大きな成果と言える。さらに、このような反応帯組織を実験室で作り出すために、pHを系統的に変えた予察的な流通式実験を行い、pHが低いときはマグネシウムが、pHが高い時は選択的にシリカが溶脱するという予察的な結果を得ている。また、海洋底の水素発生をコントロールする蛇紋岩化作用についてのFe(III)分布について、岩石磁気測定、XAFS測定を行い、磁鉄鉱は地殻ーマントル境界のダナイトで卓越し、マントルでは蛇紋石にFe(III)が選択的に分配されることを明らかにした。この他にも、ユトレヒトでのナノスケール構造解析により、三波川帯の岩石ー流体反応を伴う断層岩の細粒組織と、蛇紋岩周辺での泥質片岩の緑泥石化作用の微細組織を明らかにしつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カールスルーエ工科大学との石英脈形成実験に関する研究成果はうまくまとめることができ、Journal of Structural Geology に掲載された。ユトレヒト大との共同研究も、コロナにより予定が大きくずれ、自身が滞在することはできなかったが、学生交流のための部局間協定を提携し、博士課程の学生を1名派遣することができ、大きく進んでいる。特に、オマーンオフィオライトの蛇紋石脈の反応帯は、こちらでおこなっている反応帯の物資移動解析や高エネルギー加速器研究機構(KEK)での空隙観察に加えて、ユトレヒトの強みであるナノスケールの電子顕微鏡観察を加えて説得力のある議論を構築することができ、現在、国際誌に投稿中である。昨年、進めたチムニーの黄鉄鉱組織に関しては十分なデータが得られたので、現在、論文執筆中である。また、この他にも三波川帯の断層岩組織、緑泥石化作用による石英の置換組織、蛇紋岩の脱水組織など多方面の共同研究プロジェクトを進めている。また、ユトレヒト大の共同研究者を介して、エジンバラ大の研究者とヨーロッパの放射光施設を用いた蛇紋岩のその場脱水観察実験にもチャレンジした。以上のことから、このコロナ禍の状況にもかかわらず、多くの国際共同研究が進んでおり、概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
オマーンオフィオライトの地殻ーマントル境界の岩石で観察されたナノスケールの空隙について、更なる解析と、類似条件での水熱反応実験の生成物を比較しながら、その形成過程を明らかにする。岩石ー流体相互作用よって形成される空隙組織については、地殻岩石で見られる長石の置換反応実験、沈み込み帯岩石の緑泥石化作用、マントルウェッジでの蛇紋岩脱水組織、玄武岩の緑泥石化実験など、解析を進めている様々な反応において観察されている。これらの個々の特徴を明らかにしながら、空隙形成プロセスの普遍的なメカニズムについて考察する。また、マントルかんらん岩のシリカ交代作用、炭酸塩化作用、緑泥石化作用によって起こる、元素移動、体積変化、破壊現象に関して、マルチスケールの観察をもとに、そのメカニズムを考察する。 研究者自身のオランダ、ドイツでの長期滞在は本年も難しいと考えているが、オンラインでのディスカッションを通じて、また、博士学生の派遣を通じて、効率よく進めていく。また、多くの岩石ー流体反応現象についての研究を並行的に進めおり、それぞれについてスピード感を持って研究成果を論文化していく。
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