研究課題/領域番号 |
18KK0381
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤井 俊博 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (50706877)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | 宇宙線観測 / 極高エネルギー / 大気蛍光 |
研究実績の概要 |
宇宙空間で最も高いエネルギーを有する極高エネルギー宇宙線は、その莫大な運動エネルギーのため宇宙磁場で曲げられにくく、宇宙線の起源および加速機構を指し示す新しい天文学として期待されている。本研究では、現在の宇宙線への感度を飛躍的に向上させ、極高エネルギー宇宙線を使った次世代の天文学を開拓するために開発している低コスト型の新型大気蛍光望遠鏡を、稼働中の宇宙線観測のエネルギー較正へ発展させる研究計画である。 これまでの研究で、アメリカユタ州で宇宙線の定常観測を続けているテレスコープアレイ実験に3基の新型大気蛍光望遠鏡を設置した。また日本からの遠隔操作での運用を進め、月のない晴天夜にデータ収集を実施ししている。2019年6月にはアメリカユタ州へ出張し、現地でのメンテナンスおよび高精度解析に必要な鏡の反射率やフィルターの透過率、光電子増倍管のゲインについて測定した。また、得られた測定データを解析し、宇宙線の到来方向とエネルギーを再構成する解析ソフトウェアを実装した。そして、これまでに得られた150時間の測定データの初期解析により44事象の宇宙線事象を検出し、期待通りの性能を持つことを確かめた。これらの解析結果はテレスコープアレイ実験の共同研究者会議で報告した。 さらに、2019年4月にアルゼンチンメンドーサにあるピエールオージェ観測所に出張し、1基目の新型大気蛍光望遠鏡を設置した。テレスコープアレイ実験に設置した望遠鏡と同型の望遠鏡を設置し、日本からの遠隔操作による観測を開始した。これまでの観測で、極高エネルギー宇宙線と27 km遠方で射出された紫外線レーザーからの信号を検出し、望遠鏡が正常に動作していることを確かめた。これらの進捗状況について、ピエールオージェ観測所の共同研究者会議で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、テレスコープアレイ実験とピエールオージェ観測所に設置した同型の新型大気蛍光望遠鏡を使って、2つの別の場所にある極高エネルギー宇宙線観測実験のエネルギースケールを較正することである。そのためには、望遠鏡の安定稼働とそのデータ解析を進めることが必要となる。2019年度にはテレスコープアレイ実験のある米国ユタ州に出張し、安定稼働に必要なメンテナンス、各種較正値の測定を実施した。またテレスコープアレイ実験の研究代表者であるユタ大学のCharles Jui教授とは、共同研究者会議にて新型大気蛍光望遠鏡の観測状況および解析情報について報告している。一方、アルゼンチンメンドーサ にあるピエールオージェ観測所に滞在し、設置した新型大気蛍光望遠鏡の内部撮像用のカメラや気温、温度、望遠鏡内外の明るさを測定する環境モニターシステムを設置し、安定した定常観測へ向けた準備を整えている。さらには、Jonny Kleinfeller観測所所長と議論を深め、シャッターが動かないなどの緊急事態時の対応方法についても確認した。加えてピエールオージェ観測所の研究代表者であるRalph Engel教授とは、共同研究者会議で状況を報告している。 これらのことから、エネルギースケールの較正に必要な宇宙線事象数を実現するために安定した観測を実現できており、また両実験の研究代表者との議論も活発に進んでいるため、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これからもテレスコープアレイ実験とピエールオージェ観測所に設置した新型大気蛍光望遠鏡を使ってデータ収集を継続していく。毎週実施する定例会議で状況を共有するとともに、何か問題が発生したときの早期発見、早期解決に務める。また、テレスコープアレイ実験の研究代表者のCharles Jui教授とも今後も議論を継続していく。また観測サイトへ出張し、現地での望遠鏡の較正用データの測定、メンテナンスを実施し、安定したデータ収集が実施できる環境を整える。また来年度は、ピエールオージェ観測所の研究代表者であるRalph Engel教授が所属するカールスルーエ工科大学への長期滞在を予定している。この期間に新型大気蛍光望遠鏡で得られた測定データを解析し、ピエールオージェ観測所の大気蛍光望遠鏡との同時観測事象の探査を通して測定データの理解について進めていく。
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