研究課題/領域番号 |
18KK0382
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
佐藤 公法 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00401448)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | 機能性超空間 / 二次元ナノ物質 |
研究実績の概要 |
本研究では,地球上で最も産出量が多いケイ酸塩鉱物中のナノシートを用いて,未だ実現されていない機能性超空間の創成を目的とする。初年度は,内部にエッジサイトが導入されたナノ空間において,常温・常圧環境下で二酸化炭素(CO2)物理吸着とCO2化学吸着が同時に発現することを見出した。2020年度は,CO2吸着についてさらに詳細に調べた。CO2吸着に伴うセシウム(Cs)サイトの変化を調べるために,133Cs 核磁気共鳴法(NMR)を推進した。CO2サイトからも調べるために,13C-CO2ガスフローを行い,13C NMRを推進した。ナノ空間内表面に物理吸着するアルカリ金属イオンの濃度は,溶出実験により求めた。CHN元素分析などの化学分析データと組み合わせて,炭酸塩化により固定されたCO2濃度を定量した。その結果,ナノシートで構成されるナノ空間中に導入されたガス状のCO2分子の約87%が四重極相互作用により物理吸着することがわかった。一方で,CO2分子はナノシートエッジに弱くイオン結合した酸素原子を大気中でピックオフし,炭酸塩イオンCO32-として活性化することもわかった。これにより,導入されたCO2分子の約13%がナノ空間内表面に存在するアルカリ金属イオンに化学吸着し,安定に固定されることが判明した。上記炭酸塩化は酸性溶液等を用いることなく,常温・常圧で即座に起こる。このことは,粘土鉱物凝集体中のナノ空間には,エネルギー消費を伴わず,さらには廃液排出もなくCO2固定化が実現することを意味している。鉱物炭酸塩化により固定されるCO2濃度はアルカリ金属イオン濃度に依存し,特にナノ空間内壁のNaイオンをCsイオンで僅か0.04 mmol/g置換すると8倍にも増加することがわかった。さらに,Csイオン濃度が0.59 mmol/gまで増加する過程では,CO2濃度も増加することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は新型コロナパンデミックのため,渡欧することができなかった。そのため,溶出実験,ポジトロニウム実験によるナノ空間解析等を国内で済ませた試料を渡航先研究機関に輸送した。渡航先で予定していた核磁気共鳴(NMR)実験等は,現地の研究協力者に依頼した。二酸化炭素(CO2)吸着に伴うセシウム(Cs)サイト,CO2サイトの変化を133Cs及び13C NMRにより調べた。ナノ空間内表面に物理吸着するアルカリ金属イオンの濃度は,溶出実験により求めた。CHN元素分析などの化学分析データと組み合わせて,炭酸塩化により固定されたCO2濃度を定量した。その結果,ナノシートで構成されるナノ空間中に導入されたガス状CO2分子の約87%が四重極相互作用により物理吸着することがわかった。一方で,CO2分子はナノシートエッジに弱くイオン結合した酸素原子をピックオフし,炭酸塩イオンCO32-として活性化することもわかった。これにより,導入されたCO2分子の約13%がナノ空間内表面のアルカリ金属イオンに化学吸着し,安定に固定されることが判明した。固定されるCO2濃度はアルカリ金属イオン濃度に依存し,Csイオン濃度が0.59 mmol/gまで増加する過程では,CO2濃度も増加することがわかった。炭酸塩化は,CO2固定化技術として期待されている反面,地質環境中では風化により1000年以上も時間を要するため,高温・高圧条件,化学薬品の使用とともに進められてきた。本研究で,常温・常圧,化学薬品を使用せずに,炭酸塩化によるCO2固定化を達成できたことは意義がある。さらに,定量的な議論ができたことも大きい。一方で,近傍に準一次元アイスを生成するナノ空間の研究に関しては,コロナ禍により思うように進まなかった。以上より,現在までの達成度はやや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度に予定していた,近傍に準一次元アイスを生成するナノ空間の研究に関しては,コロナ禍により幾つかの予備実験を行うことしかできなかった。3年目である2021年度は,準一次元アイスを生成するナノ空間の研究を確実に進める予定である。まず国内の研究機関でケイ酸塩鉱物にメカノケミカル湿式反応による組織細分化を推進し,非架橋酸素の導入を試みる。メカノケミカル湿式反応は,遊星型ボールミルを用いる計画である。メカノケミカル反応では,ケイ酸塩物質を構成するSiO4四面体シートが一部切断され,非架橋酸素を生成する。わずかに存在するAlO4四面体では,酸素が欠落する。AlO4四面体のアルミは非架橋酸素と架橋し,近傍に局所的な負帯電状態が形成された連結したナノ空間を生成することが期待される。ナノ空間計測はポジトロニウム分光実験,比表面積の評価はガス吸着実験により行う。さらに,フーリエ変換赤外吸収分光実験により,メカノケミカル反応により変化した結合に関する情報を得る。上記試料を渡航先研究機関に持参し,一連の固体核磁気共鳴実験を推進する。連結ナノ空間近傍で水分子集団系は空間的制約を受けるため,準一次元アイス状態を形成し,一方で物理吸着した水分子は湿式反応でプロトンと酸素イオンに分解され,プロトンは連結ナノ空間近傍の負電荷に弱局在することが期待される。SiO4四面体近傍の化学環境はシリコン29固体核磁気共鳴により,水分子集団系の状態はプロトン固体核磁気共鳴により調べる。局在プロトンは水素結合を介して準一次元アイスをホッピングするため,常温・無加湿状態で超プロトン伝導が発現することが期待される。プロトン伝導特性を電気化学インピーダンス計測により調べる。この実験は帰国後に国内研究機関で実施する。
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