本研究では,地球上で最も産出量が多いケイ酸塩鉱物中のナノシートを用いた機能性超空間の創成を目的とする.初年度は,内部にエッジサイトが導入されたナノ空間において,常温・常圧環境下で二酸化炭素(CO2)物理吸着とCO2化学吸着が同時に発現する現象を見出した.次年度にあたる2020年度は,CO2吸着に伴うセシウム(Cs)サイトの変化を調べるために,133Cs 核磁気共鳴法(NMR),13C NMRを推進した.その結果,ナノシートで構成されるナノ空間中に導入されたガス状のCO2分子の約87%が四重極相互作用により物理吸着することがわかった.一方で,CO2分子はナノシートエッジに弱くイオン結合した酸素原子を大気中でピックオフし,炭酸塩イオンとして活性化することもわかった.これにより,導入されたCO2分子の約13%がナノ空間内表面に存在するアルカリ金属イオンに化学吸着し,固定されることが判明した.鉱物炭酸塩化により固定されるCO2濃度はアルカリ金属イオン濃度に依存することもわかった.3年目に当たる2021年度は,CO2分離や再生など,吸収剤としてより実践的な研究を進めた.上記メカニズムで活性化した炭酸塩イオンは,吸着水程度の水分子存在下でさらにプロトン化し,ナトリウムイオンなど層間の陽イオンカチオンに炭酸水素ナトリウムとして固定されることがわかった.フーリエ変換赤外吸収分光により炭酸水素ナトリウムとケイ酸塩物質混合物の検量線を作成し,吸収されたCO2の定量を行ったところ,吸着剤に対して約35重量パーセントであることがわかった.CO2吸着に伴い生成した炭酸水素ナトリウムは,適度な湿度を与えると通常の炭酸水素ナトリウム結晶の3割ほどのエネルギーで即座に分解しCO2を分離する.その後,この吸収剤は再びCO2を吸収するようになる.つまり100%再生することもわかった.
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