本研究は、基研究を発展させ、Ag-In-Yb準結晶表面におけるPb或いはBiからなる単元素準結晶薄膜の成長機構と、成長限界の支配因子解明を目指した研究である。 昨年度に行った研究により、準結晶基板上にBiを吸着させた場合、実験で観測された走査型電子顕微鏡(STM)像を再現する吸着構造を得るためには、STMで観測されていない原子層の存在が必要であることが分かった。そこで、STMで観測されていない原子層が形成される可能性を詳細に調べたが、この原子吸着の一部については、計算で得られた最小エネルギー経路を用いて説明することは困難であるとの結論に達した。この過程で、使用モデルの計算精度について調べ、査読付き論文として出版した。この調査の結果、精度に問題がないことは確認できたが、これはすなわち、モデルに取り入れられていない効果の重要性を示唆する。そこで現在、これまでのモデルに取り入れられていない効果の影響について調べている。 新型コロナウィルスの影響により当初予定していた2020年度の渡航ができず大幅な予定変更を要したが、2019年度の滞在中に形成された人的ネットワークにより、複数の新たな共同研究を開始することができた。その一つはAu-Al-Tb近似結晶(111)表面の安定構造に関するものであり、共著論文の出版という成果として結実した。Au-Al-Tb近似結晶は、本研究で単元素準結晶薄膜の基板として用いているAg-In-Yb準結晶の近似結晶であり、本研究と直接関係するものであるため、この共同研究で得られた知見は本研究にも活かされている。また、本研究の内容と直接関係する課題ではないが、研究代表者らが行っていたNi-Al合金の酸化初期段階の研究についても共同研究を開始することができた。
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