本研究は、現生両生類の筋骨格モデルから絶滅種であるアルバノペトン類の首の可動性を復元し、生息環境に応じた首の可動性の増大と抑制の意義を議論することで両生類の進化の一遍を解き明かすことを目的としている。本課題を遂行するため、研究期間中に以下3つの新しい手法を習得した。1)CTにおける軟組織の可視化(ヨウ素染色方法);2)後頭部および頚椎の3D形態解析(多変量解析);3)首の関節モデルの構築。 現生両生類に共通する首の筋をもとにアルバノペトン類の筋復元を行ったところ、第1椎骨(または第2椎骨)から頭頂部に付着する筋が発達していることが明らかになった。推定される筋の走行から、主に頭部の背屈を担うものと考えられる。また、第2椎骨と第1椎骨をつなぐ筋については、椎骨の形状が現生種と大きく異なっているため(関節突起の消失など)、筋の配置も特殊化していることが示唆された。さらに現生両生類とアルバノペトン類の第1椎骨の形状を3D多変量解析した結果、捕食様式の類似性が指摘されるプレソドン類を含むどの現生両生類とも形態が異なっていることが示唆された。これは、第1椎骨の可動域の違いを反映するものと考えられる。特にアルバノペトン類では、第1と第2椎骨の関節がソケット状になり運動方向が側屈に制限されている。このようにアルバノペトン類では、第1椎骨と後頭顆の関節は背腹屈に適応する一方で、第2と第1椎骨間では側屈に制限されている点で現生両生類と大きく異なることが明らかになった。これらの情報から、3D骨格モデルを構築したところ、舌骨が細長く胸帯近くまで伸長していることから、後頭部と首関節の可動性が制限される可能性が明らかになった。今後、顎関節と舌骨の筋骨格を復元し、これらを解析に加えて首の可動範囲を総括的に検証する必要がある。
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