研究課題/領域番号 |
18KK0397
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
長尾 聡 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 特任助教 (30452535)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | タンパク質 / ナノ構造体 / 高分解能構造解析 / 固体NMR / ナノディスク / 膜タンパク質 / 脂質膜 |
研究実績の概要 |
タンパク質や脂質などの生体分子が集合して形成される分子複合体は、単分子では実現不可能な多彩な機能と構造を有しているナノ構造体である。近年、タンパク質工学的、有機および錯体化学的、計算科学的な手法を用いて人工的にナノ構造体を構築する手法が国内外で磨かれている。一方で、自在にナノ構造体をデザインするには未だ至っていない。その原因として、ナノ構造体のビルディングブロックを配列させる際に構造ゆらぎや非特異的な分子間相互作用に起因する不完全な配列が生じることが挙げられる。本研究課題では固体高分解能NMRを主に用いて、不完全に配列したナノ構造体の構造解析を行い、分子設計へとフィードバックすることで、タンパク質ナノ構造体の構築法を発展させることを目的とする。 本年度は米国ミシガン大学のRamamoorthy研究室との共同研究で得られたデータ解析を行った。13Cおよび15Nで二重安定同位体標識したウマシトクロムcをエタノールにより多量化させて作製した試料を用いた。ウマシトクロムcはドメインスワッピングにより40量体以上の高次多量体を形成するため、まずは高次多量体の溶液中における二次元NMRスペクトルを測定した。HSQC測定では数本の線幅の大きいピークのみが観測されたが、TROSY-HSQC測定では高次多量体に由来すると考えられる多数のピークが観測された。次に、35℃でTROSY-HSQC測定を連続的に行い多量体の経時変化を追跡したところ、徐々にピークの数が減少すると共に単量体由来のスペクトル強度が増加する様子が観察された。以上より、加熱により多量体の大きさの分布を系統的に変化させて固体NMR測定が可能であることが示された。次に、多量体の固体高分解能NMR測定を行ったが、感度と分解能を改善する必要があったため、国内における共同研究機関で動的核偏極固体NMR測定の利用を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の重要な点として、不完全な配列を有するナノ構造体の構造解析に有効な固体高分解能NMR解析を行うための日本ー米国間の国際共同研究体制を構築することが挙げられる。本年度は、昨年度Visiting Scholarとして米国ミシガン大学に滞在中に交流した化学科のZhan Chen教授と新規なタンパク質構造解析法の開発を目的とした共同研究を開始した。一方で、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大に伴って海外渡航が困難となり国内でも研究活動が制限されたため当初予定していた測定が行えなかった。また、参加予定にしていた国際学会が中止・延期になり、成果発表が困難となった。以上の点より、本年度の進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度はミシガン大学滞在中に行った研究を日本においても進展させるため、ミシガン大学と同等の研究環境を国内において構築する。令和3年度の大阪大学蛋白質研究所の超高磁場NMR共同利用研究課題に採択されたため、高分解能NMR測定を国内においても進める。さらに、同機関の動的核分極固体NMRに申請し、固体NMR測定の感度・分解能を向上させ不完全な配列を有するナノ構造体の構造解析を進める。また、共同研究のネットワークを広げることで、日本ー米国の研究者間の国際ネットワーク構築を推進する。
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