研究課題/領域番号 |
18KK0397
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
長尾 聡 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 散乱・イメージング推進室, テニュアトラック研究員 (30452535)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2024
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キーワード | タンパク質 / アミノ酸同位体標識 / NMR / 天然変性タンパク質 / XFEL / 結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
タンパク質の機能は動的かつ多様であり、それらの発現機構の理解や化学的な制御には、生体分子の動的な状態とその構造変化を高い分解能で観察することが必要不可欠である。本研究では、タンパク質の動的な構造の変化とそれによってもたらされる集合状態の変化を捉える手法の開発を行っている。本年度は、光によって時計タンパク質等の発現制御を行う光応答性タンパク質のNMRによる構造解析を行った。また、シトクロムP450における酵素反応中間体構造のX線結晶構造解析も行った。 クリプトクロムは光によって時計タンパク質等を制御するタンパク質であり、クラミドモナス由来のクリプトクロムは約500残基の構造領域とC末端側の約100残基の天然変性領域を有するタンパク質である。さらに、光受容部位としてFADを持ち、生理的な機能をもつとされる光還元状態を維持するには嫌気状態の維持が不可欠であるため、NMR測定としては難易度の高い測定試料である。本研究では、疎水性アミノ酸残基の側鎖メチル基を選択的に13C同位体標識し、さらにNMRシグナルの高感度化のため2H同位体標識をクリプトクロムに対して行った。試料はグローブボックス中の嫌気環境下で調製し、NMR測定前後で吸収スペクトルでクリプトクロムの光受容状態を確認した。様々な二次元NMRスペクトルにおいて、クリプトクロムの構造領域および天然変性領域の先鋭化されたシグナルを検出することに成功し、天然変性領域の一部に暗状態と明状態で違いが観測された。 また、シトクロムP450の微結晶をX線自由電子レーザー(XFEL)で構造解析し、これまで捕捉されていなかった酸化反応直前の酸素型中間体構造を明らかにした。本成果は国際会議で発表し、投稿論文としても次年度に投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の重要な点として、不完全な配列を有するナノ構造体の構造解析に有効な固体高分解能NMR解析を行うための日本ー米国間の国際共同研究体制を構築することが挙げられる。本年度は、研究代表者の所属機関の変更により、研究環境の再構築が必要となった。そこで、前所属機関の兵庫県立大学の研究グループに加え、徳島大学のNMR研究グループとの共同研究を開始し、高分子量のタンパク質の高感度測定が可能な研究体制を構築した。これにより、タンパク質の同位体標識の技術とその測定法の連携が可能となった。一方で、今年度の前半は昨年度から続いていた新型コロナウィルスの世界的な感染拡大に伴う渡航の制限などから国際共同研究の推進が困難であった。以上の点より、本年度の進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は共同研究体制を構築している兵庫県立大と徳島大学の研究グループと継続して進める。また、固体高分解能NMRについては、大阪大学蛋白質研究所の固体高分解能NMRを利用した共同研究を進め、他に米国ウィスコンシン大学のNMR-FAMに異動したミシガン大学での共同研究者と国際共同研究を進める。
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