本研究では,橈骨遠位端骨折の骨折形態の多様化の発生要因を明らかにするために,米国バージニア大学においてヒト前腕を用いた転倒再現実験を実施し,骨折形態の異なる橈骨遠位端骨折を再現するとともに,有限要素法を用いて実験再現解析を実施することにより骨折の発生メカニズムを調査することを目的とした.2019年度では,実験装置の設計や実験プロトコールの検討を行い,実験に向けた準備を実施した.また,2020年度では,米国バージニア大学においてヒト前腕による転倒再現実験を行い,実験結果の解析や有限要素モデルの構築のための医療画像の取得を実施した.2021年度では,詳細な手首有限要素モデルを構築し,このモデルを用いて実験再現解析を実施し,実際の骨折形態と橈骨の力学応答との関係を調査した結果,以下の成果を得ることができた. 1.医用画像の輝度値に基づいて材料不均一性を再現した個体別手首有限要素モデルを構築できた.また,実験時の手首姿勢と同様の姿勢をもった手首有限要素モデルを得ることができたため,実験再現解析を同条件下で実施できるようになった. 2.有限要素解析の結果より,骨折の箇所とミーゼス応力の集中箇所がほぼ一致しており,ミーゼス応力と骨折の発生が関係している可能性があることが明らかになったとともに,本研究で確立した実験再現解析手法の妥当性と有用性を確認できた. 3.個体別有限要素モデルを用いることにより,ミーゼス応力分布の異なる解析結果を得ることができ,骨の形状,骨間の相対位置,材料特性の分布などが橈骨遠位端骨折の骨折形態の多様化に大きな影響を与える可能性があることを明らかにすることができた.
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