研究課題/領域番号 |
18KK0405
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上田 純平 京都大学, 人間・環境学研究科, 助教 (90633181)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | 長残光蛍光体 / 蓄光材料 / 電子トラップ / 希土類イオン |
研究実績の概要 |
基課題においては、白色LED照明に使用されているCe3+やEu2+の希土類イオンが添加された蛍光体の温度消光原因を解明することが目的であった。その消光原因として、Ce3+やEu2+の励起電子が熱により伝導帯へ移動する熱イオン化が考えられ、イオン化によって生じた電子が結晶欠陥に捕獲・熱解放される現象を効果的に利用することにより、いくつかの蛍光体において熱イオン化による消光を証明した。この熱イオン化消光は、見方を変えると、励起光の遮断後も長時間発光が続く長残光現象における蓄光過程である。よって、本国際共同研究では、観測した消光機構を逆手に取り、蛍光体における電子トラップ種やトラップ深さの調整を行うことで、新規長残光蛍光体への展開・開発を目的とする。 昨年度は、Ce3+添加ガーネット蛍光体における熱消光プロセスから、伝導帯のエネルギー位置が低いGd3Ga5O12(GGG)ホストに着目し、Pr3+とTb3+を残光中心イオン、Eu3+を電子トラップイオンとして賦活することで、白色長残光蛍光体の開発を行った。 本年度は、GGG:Pr3+-Eu3+, GGG:Tb3+-Eu3+, GGG:Pr3+-Tb3+-Eu3+における発光・長残光メカニズムの詳細な調査を行った。真空準位を基準としたエネルギーダイアグラムと熱ルミネッセンス励起スペクトルなどの光学特性評価から、残光中心イオンと電子トラップ間の電子移動プロセスや発光色と長残光色の違いなど様々な光物性を明らかにした。また、ホスト組成のGd3+のため得られた長残光蛍光体は高い磁気モーメントを有する常磁性体であり、水中に分散した白色長残光蛍光体粒子はNdFeB磁石により引き寄せられることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、開発したGGG:Pr3+-Tb3+-Eu3+白色長残光蛍光体の発光・長残光メカニズムに注力し、研究を行い、詳細な光物性を明らかにした。例えば、本蛍光体は254nmの紫外線励起により赤色発光を示すが、紫外線励起遮断により白色長残光を示す。この大きな発光色の変化が、発光励起過程と長残光機構と密接に関連しているこを明らかにした。また、開発したGGG:Pr3+-Eu3+白色長残光蛍光体は、報告されている白色長残光蛍光体において残光輝度が0.32mcd/m-2に達するまでの長残光時間が13.3hと最も長かった。さらに、ホスト組成の一部であるGd3+の特性を活かし、「磁石にくっつく白色長残光蛍光体」というユニークな機能を有する材料であることも示し、今後の応用展開が期待される。 なお、これらの研究成果は、Advanced Photonics Researchに投稿し、出版された。
以上より、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、残光メカニズムなどより基礎的な物性評価に注力してきたが、今後は応用に向け新たな長残光蛍光体の開発を固体電子構造に基づいた材料設計指針に従い、積極的に行う予定である。また、作製したPr3+が残光中心イオンとして働く長残光蛍光体は、2光子から1光子の変換であるアップコンバージョン蓄光が可能であることを見出した。低エネルギー蓄光により高エネルギー残光を得られる本機構は、紫外線蓄光が難しいような環境においてメリットを有しており、新たな応用展開が期待されるため、アップコンバージョン蓄光についても研究を進める。
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