研究課題/領域番号 |
18KK0406
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山本 直嗣 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (40380711)
|
研究期間 (年度) |
2019 – 2021
|
キーワード | 電気推進 / ホールスラスタ / 異常輸送 / 擾乱 / プラズマ計測 / 原動機・推進 / プラズマ |
研究実績の概要 |
宇宙の推進装置にも電気エネルギーを推進力に変換する電気推進を採用する流れが加速している。電気推進の中でも推力電力比(単位電力あたりに発生する推進力)が大きいホールスラスタが有力候補であり、JAXAの次期技術試験衛星への搭載が見込まれている。このホールスラスタ開発の鍵となるのが、推力電力比向上を阻害する電子の異常輸送(電子が理論値よりも拡散しやすい)の抑制である。異常輸送の要因として、プラズマの揺動(揺らぎ)が示唆されており、異常輸送の抑制には揺動の抑制が必須となる。揺動の抑制には、境界条件であるホールスラスタ外部のプラズマ状態の計測が必要であるが、現有の計測技術の改善だけでは不可能である。そこで国際共同研究において、独自技術を持ち寄って計測技術の高度化に取り組みつつ、計測データを元に物理モデルを構築し、モデルを基に革新的なホールスラスタを開発し、宇宙利用の低コスト化に貢献する。 渡航先のフランス原子力・ 代替エネルギー庁(CEA)において、共同研究者と揺動の解析手法の検討、および解析したデータの分析、さらに理論モデルの構築に向けた方向性を検討した。結果として、観測された揺動間に非線形結合があることがあきらかになった。また、特定の揺動において、異常輸送との関係を示唆する解析結果が得られた。 二つ目の渡航先であるアメリカ合衆国コロラド州立大学への渡航はコロナウイルス感染症の影響で派遣を一年間延期することとなった。一年間の延期に伴い、渡航前の国内において、独自技術である高時間分解計測のさらなる高度化に取り組んだ。計測感度の向上と共に、課題が洗い出されるなどの成果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
渡航後の研究の進捗状況ではあるが、当初の計画以上にデータの解析が進んだ。コロナウイルスによる外出制限のために、テレワークでの作業を強いられた。しかしながら、受入研究者と、WEB会議システムを利用して行った議論を通して、理論モデルの構築ができた。このように、当初計画以上に研究は進展している。 コロラド州立大学への渡航は延期されたため、当初予定していた、コロラド州立大学及び九州大学の独自技術を持ち寄った計測技術の高度化には取り組めていない。しかしながら、渡航延期に伴い、アメリカ渡航前に国内において独自技術に磨きをかけるため、独自の時間分解計測の高度化を行っていた。レーザーの故障等があり研究期間は十分ではなかったが、感度の向上を確認するとともに、ノッチフィルタの改良が必要であるなどの課題が明らかになるなど、一定の成果が得られた。 このように当初の計画とは違っているが、成果も上がっており、研究は順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、フランス渡航前およびフランスから帰国後に国内で得られた膨大なデータが未解析のまま残っているため、その解析を引き続き進める。解析結果の検討を行いながら、揺動がどのように異常輸送に結びついているのかを記述する理論モデルの改良を行いつつ、異常輸送のメカニズム解明を目指す。 渡航前の国内において、時間分解計測の感度および精度向上に引き続き取り組む。この成果を持って、二か所目の渡航先であるコロラド州立大学(CSU)において、九州大学とCSUのそれぞれのもつ独自の計測技術を持ち寄って、計測技術の高度化に取り組み、現有の計測技術の改善だけでは不可能であった希薄なホールスラスタ外部の密度計測に取り組む。具体的には、CSUが持つ希薄粒子計測システムと九州大学で開発した時間分解計測を組合せ、非常に希薄なホールスラスタ外部の密度の時間分解計測が可能な計測システムを共同で構築し、感度および精度を評価する。 帰国後も共同研究を継続し、構築したシステムを用いてホールスラスタへ適用し、計測技術の適用で浮かび上がる課題の解決に共同であたる。得られた詳細な結果をもとに、ホールスラスタにおける物理モデルの改築においても協働し、異常輸送の抑制を試みる。
|