当該年度は、再現性のよい移植可能な肝細胞シート組織の構築と移植方法を確立した。具体的には、酸素供給不足を回避するために、培地深さを減少させて気相/培地界面から培養肝細胞への酸素供給を促進させた。PIPAAm修飾ポリスチレン製培養皿上で72時間培養したところ、培地深さ2.6 mmの場合、完全な単層は形成されず、死細胞の凝集といくつの欠損が見られたが、培地深さ1.3 mmでは肝細胞は単層を形成しほぼ均一なE-カドヘリンの発現が見られた。さらに、20℃で30分間培養、その後セルスクレーパーを用いてシート周縁部をこすると、肝細胞シートとして脱着した。また、ラット皮下に移植した近赤外蛍光シアニン色素染色肝細胞シート組織を蛍光in vivoイメージングシステムで認識し、移植肝細胞シート組織の生着を定量的に評価できた。 さらに、大腸菌による組み換えタンパク質ヘパリン結合性フィブロネクチン(FN)フラグメントの産生を行った。ヘパリン結合性FNフラグメントの発現は、37℃では不溶性の凝集体となったが、室温で溶解性のタンパク質として得られた。大腸菌の溶解物をHeparin Sepharose樹脂充填カラムに導入したのち、0.4 mol/L NaCl水溶液を流してタンパク質が得られた。また、ウェスタンブロッティングにより、この溶出タンパク質はFN領域を含むことが確認された。以上のことから、0.4 mol/L NaCl水溶液で溶出したタンパク質はヘパリンとの間で強い静電的相互作用で吸着しており、溶出したタンパク質はヘパリン結合性FNフラグメントであると考えられる。今後、ヘパリン結合表面上で、ヘパリン結合性FNフラグメントとmRNA/カチオンコンプレックスを固定し、遺伝子デリバリーによる血管新生因子分泌を誘導することにより、移植した肝細胞シート組織を効率的に生着されることが期待される。
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