研究課題
近年の幹細胞研究の進展によるオルガノイドの作出は、体外でヒト臓器形成の過程を再現する技術として注目を浴びている。本年度では、オルガノイド研究において最先端の技術を有するシンシナティ小児病院と連携し、間充織を含む呼吸器ならびに食道のオルガノイドを安定的に作出する技術基盤の樹立に挑んだ。これまでに作成した呼吸器ならびに食道オルガノイドはいずれも上皮細胞を主体に構成され、周辺を覆う間充織組織はほとんど含まれていなかった。そこで、ヒトES細胞から作成した臓器間充織の前駆細胞をオルガノイドと融合することにより、より高次的な構造を有したオルガノイドの作製を試みた。上皮オルガノイドと間充織細胞を融合する条件を確立するために、細胞数および融合比率、細胞外基質について検討を行った。条件の最適化の結果、間充織細胞を多く含む呼吸器ならびに食道オルガノイドを作製する技術基盤を構築することができた。いずれのオルガノイドにおいても、間充織細胞を融合することにより、成長の促進・融合した間充織細胞近傍の呼吸器上皮細胞ならびに食道上皮細胞の分化誘導効率の亢進が観察された。今後の研究では、単一のオルガノイド内で気管食道の両原基の融合を試みる。さらに、1細胞トランススクリプト―ム解析とライブイメージングを駆使してヒト気管食道発生のメカニズムの解明に取り組む。特に上皮間充織間相互作用による間充織細胞の極性化が同調する仕組みに焦点を充てる。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究課題では、間充織を豊富に含んだ呼吸器と食道のオルガノイドをより高効率に作製することを目指した。初めに、呼吸器および食道上皮細胞の前駆体である前腸内胚葉の誘導条件について検討を行った。その結果、BMPおよびTGFbシグナルの阻害およびレチノイン酸シグナルの活性化により、約90%の効率で呼吸器並びに食道を誘導できる内胚葉細胞を作成することに成功した。次に、これらの内胚葉細胞と融合する臓器間充織前駆細胞をヒトES細胞から分化誘導する条件の最適化を行った。食道間充織前駆細胞の分化誘導にはレチノイン酸の添加が必要であること、呼吸器間充織前駆細胞の誘導にはレチノイン酸に加えてSHHアゴニストの添加が効果的であることは見出した。作成した内胚葉細胞と間充織前駆細胞を融合し、より生体内の臓器に近いオルガノイドの作製を試みた。融合するための環境について、検討を行った結果、呼吸器のオルガノイドの作製には細胞外基質を必要としない一方で、食道オルガノイドの作製にはマトリゲルが必要であることがわかった。以上の結果から、間充織を豊富に含む呼吸器及び食道オルガノイドの作製手法を確立した。
本年度の検討の結果、呼吸器・食道オルガノイドのツールとして、より精度の高い内胚葉細胞および間充織前駆細胞を作成することができた。さらに、これらの細胞を融合することによって、効率的に呼吸器および食道オルガノイドを誘導することに成功した。今後は、内胚葉細胞と間充織前駆細胞の細胞数を最適化することによって、より生体内の臓器の細胞構成に近いオルガノイドを開発する。本研究では、呼吸器オルガノイド・食道オルガノイドをそれぞれ単独で誘導したが、加えて今後は、内胚葉細胞に呼吸器間充織前駆細胞と食道間充織前駆細胞の双方を融合することのよって、呼吸器と食道が連結したオルガノイドを作製することを目指す。また、作製したオルガノイドの細胞の極性や増殖を初めとした性状を詳細に解析することによって、ヒト臓器発生のメカニズムの解明に取り組む。申請者らはマウス胎仔を用いた先行研究により、呼吸器・食道発生において、間充織細胞の極性化・協調的な運動にはShhならびにWnt signalingが関与することが示唆されている。これらの現象がヒトでも保存されているかについて、樹立したオルガノイドを用いて検証する
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Nature communications
巻: 11(1) ページ: 4158
10.1038/s41467-020-17968-x.
巻: 11(1) ページ: 4159
10.1038/s41467-020-17969-w.