研究実績の概要 |
かつて生物圏外と考えられた南極の砂漠などの極限貧栄養環境では原核生物を中心としたエコシステムが成り立っている。そのエコシステムを支える菌群は従来法での培養が難しく多くは高次分類階層(科~門)レベルで未培養である。とりわけ既知の1次生産者(シアノバクテリアや藻類)が活動しない生態機能は謎に包まれている。クテドノバクテリア綱の未培養系統と新門候補WPS-2はいずれもシアノバクテリアが活動しない極限貧栄養環境下で共存して優占棲息することが数多く報告されており、そのエコシステムのキープレイヤーと考えられる。本研究では、海外共同研究者の Bradley Tebo教授が採取した南極Erebus山(標高 3,794m)の洞窟内火山岩堆積物から新規クテドノバクテリアを分離することを目的に研究を開始し、昨年度は新規クテドノバクテリア(WC7-1株)と未培養系統である新門候補WPS-2(WC8-5)に属する細菌の分離に成功した。しかしながら、新規クテドノバクテリア株(WC7-1株)は継代培養の際に生えてこなくなり、死滅させてしまった。 今年度は新門候補WPS-2に属するWC8-2株に焦点を当てゲノム解析と電子顕微鏡による形態観察を実施した。その結果、本菌株のゲノムには光化学系Ⅱ型反応中心(pufM, L, H)、バクテリオクロロフィル生合成遺伝子及びカルビン・ベンソン回路による炭酸固定系の遺伝子が完備された非酸素発生型光合成細菌であることが分かった。細胞は外膜、内膜と薄いペプチドグリカン層を持つグラム陰性型で、ベシクル状の内膜構造やポリヒドロキシ酪酸様構造体など光合成細菌によく見られる特徴を示した。今後、培養生理学的試験により炭素・エネルギー代謝の特性を明らかとする。
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