研究課題
昨年度までの研究で細胞内外において重合されたポリマーががん幹細胞の特性解明に有効な化学プローブ分子として機能し得ることを確認した。そこで今年度は既存のポリマーライブラリーに更なる多様性を付与すべく、様々な合成条件下でのハイドロゲル化(3次元化)がポリマーの生物機能に与える影響を検証した。ゲル上での細胞挙動を解析するため、高さ20μm程度の薄層ゲルを作製した。モノマーおよび架橋剤の濃度、水の有無、UV波長の違いにより同一のモノマーから数種類の異なる薄層ゲルを合成し、その上で可視化がん幹細胞を培養したところ、ポリマーの持つ生物機能の相対的な方向性はモノマーの種類に依存する一方で、活性の強弱は合成条件次第で大きく変化することが明らかとなった。そこで大規模なポリマーライブラリーとスクリーニング系の構築を開始した。従来のスライドグラス上に整列的にスポットしたポリマーアレイではスポット間の細胞間相互作用の影響を完全には無視できなかったことから、スクリーニング系には100%ホウケイ酸ガラス製の96穴プレートを使用することとした。細胞培養時のハンドリングを容易にするため、ポリマーはwell底に固相化した。ガラス表面をNaOHでエッチング後、アクリル化による反応基の修飾を行い、そこに連結する形でポリマーを重合することで、洗浄や滅菌後にもポリマーが保持され、再現良く生物活性を発揮することが確認された。以上の成果は国際共同研究を端緒とした日本独自のがん特異的ポリマー・ハイドロゲルライブラリーの構築へ向けた予備的な解析基盤として重要な成果と考える。
2: おおむね順調に進展している
日本独自のがん幹細胞制御性人工高分子の取得に向けて、スクリーニング系構築の礎となる詳細な合成条件の検討を終え、特定の条件下におけるハイドロゲル化がポリマーの生物活性に対する多様性の付与に有効であることが確認できた。さらに96穴プレートを用いたスクリーニングシステムを新たに導入するに当たって、課題となるポリマー固相化のためのwell底の反応基修飾についてもプロトコルを確立でき、今後大規模なライブラリー構築に移行するための準備が整った。
多種モノマーの組み合わせによる大規模なホモポリマー・ヘテロポリマーライブラリーを作製する。浸潤や術中診断回避、抗がん剤耐性や放射線耐性など様々な悪性形質を担うがん幹細胞亜集団に対して解析プローブとなり得るポリマー分子を細胞内重合・細胞外重合の両技術を用いて探索する。がん幹細胞を維持するヒットポリマーが得られた場合にはその作用機序を解析することで、がん幹細胞維持機構の解明を目指す。がん幹細胞に死滅をもたらすヒットポリマーが得られた場合には担がんマウスへの静脈投与、あるいはモノマー前駆体投与後の光照射重合により抗腫瘍効果を検討する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.tmd.ac.jp/mri/scr/index.html