研究課題/領域番号 |
18KK0435
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
服部 剛志 金沢大学, 医学系, 准教授 (50457024)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | 多発性硬化症 / 脱髄 / 神経炎症 / アストロサイト / ミクログリア / サイトカイン / NAD / 神経変性疾患 |
研究実績の概要 |
多発性硬化症などの脱髄疾患は神経軸索周囲に形成される髄鞘が破壊される疾患であり、神経伝達障害による、運動・感覚・認知機能障害を引き起こします。近年、中枢神経系において免疫を担当するグリア細胞(アストロサイト、ミクログリア)の活性化による神経炎症が脱髄促進因子として重要であることが明らかとなってきました。私たちは、NADが神経炎症を抑制し、脱髄を軽減させる効果を持つことを見出しました。 NADによるグリア細胞活性化抑制メカニズムを明らかにするために、私は、アイオワ大学生化学教室に令和2年2月から8月まで出張し、NAD-targetedメタボローム等を用いて、CD38遺伝子欠損グリア細胞のNAD代謝の変化を解析しました。その結果、CD38の欠損により、細胞内NAD濃度が2倍以上に上昇し、それに対してAdpr濃度は顕著に減少していました。また、NADはミクログリア、アストロサイトの両グリア細胞においてNF-kBシグナルを減少させることにより、グリア細胞の活性化を抑制することが明らかになしました。これらの結果より、NADはグリア細胞のNF-kB シグナルを抑制することにより、その活性化を抑制し、その結果、神経炎症が軽減されることにより、脱髄疾患の脱髄を抑制されることが明らかとなりました。 現在、NADを脳内で増加させる効果を持つ化合物(NR:ニコチンアミドリボシド及びApigenin:アピゲニン)を神経炎症モデル動物に投与し、炎症抑制効果があるかを検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脱髄病態におけるNAD+の代謝変動については、クプリゾンモデルにおいてNAD+レベルの検討を行い、NAD+レベルは予想に反し少し上昇していることが明らかとなった。また、細胞レベルにおいては活性化グリア細胞においてはNAD+レベルは減少していることが明らかになり、CD38KOマウス由来のグリア細胞においてはNAD+の顕著な上昇が認められた。よって、脱髄病態におけるNAD+代謝の変動については、おおむね解析することができたが、クプリゾンモデル以外の脱髄疾患モデルにおけるNAD+レベルについては、今後解析する必要がある。 また、NAD+にようる脱髄抑制効果の検討については、現在、NAD+の前駆体NRの投与及びアピゲニンの投与による神経炎症への抑制効果を検討中である。よって、NAD+による治療効果検討についてもおおむね予定通り進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果より、NAD+が脱髄を抑制するメカニズムとして、NAD+の神経炎症抑制作用によるということが明らかとなった。 今後は、神経炎症モデルマウスにおいてNAD+の神経炎症抑制効果効果を明らかにする。具体的には、NAD+を増加させる効果を持つNRおよびアピゲニンを1週間連続投与する、その後、LPSを脳室に投与し神経炎症モデルを作成する。そして、LPS投与後の6時間及び24時間後の神経炎症の程度を、炎症性サイトカインの発現量及びグリア細胞の活性化、神経障害の程度を解析する。 また、培養ミクログリアとアストロサイトを用いて、NAD+がグリア細胞活性化の細胞内シグナル経路に与える影響を検討する。具体的には、培養グリア細胞にNR及びアピゲニンを添加し、その後LPS刺激をした後のNF-kBシグナル、JAK-STATシグナルの変動を解析する。 これらの実験を行うことで、NAD+の生体における神経炎症に与える影響とその制御メカニズムを明らかにしていきたい。
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