研究実績の概要 |
多発性硬化症などの脱髄疾患は神経軸索周囲に形成される髄鞘が破壊される疾患であり、神経伝達障害による、運動・感覚・認知機能障害を引き起こします。近年、中枢神経系において免疫を担当するグリア細胞(アストロサイト、ミクログリア)の活性化が、神経炎症を引き起こし、脱髄を促進することが明らかとなってきました。私たちは、NADという老化予防に働く分子がこの神経炎症を抑制し、脱髄を軽減させる効果を持つことを見出してきました。そして、NADの分解酵素であるCD38という分子が、NfkBという分子を介して脳内の炎症を促進させることを見出しました。さらに、このCD38を阻害する化合物(アピゲニン)やNADを増加させる効果を持つNRという分子が、神経炎症を抑制することを見出しました(Roboon et al., Front in Cell Neurosci,2019; Takaso et al.,Sci reports, 2020; Roboon et al., J Neurochem, 2021)。さらに私たちは、CD38以外のNAD分解酵素である、PARPがグリア細胞に発現していることを見出しました。PARPはNADを分解し、ADPリボシル化というたんぱく質の修飾を行い、標的のたんぱく質の働きを制御します。私たちは、このPARPによるADPリボシル化がミクログリアの活性化に重要な働きをすることを見出しました。 以上の結果は、NADという分子が、その下流でCD38やPARPを介して、グリア細胞の活性化を制御することを示唆します。つまり、この分子メカニズムを明らかにすることは、神経炎症が関与する疾患であるある多発性硬化症だけでなく、アルツハイマー病などの神経変性疾患の病態解明や治療法の開発につながる可能性を持ちます。
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