本研究で着目している視床網様核はノンレム睡眠スピンドル波発生のリズムジェネレーターだと考えられており、統合失調症や自閉症スペクトラム障害(ASD)などさまざまな精神神経疾患でその異常が報告されている。統合失調症の注意機構異常の神経基盤を明らかにするために、さまざまな統合失調症モデルマウスを使用し、生理学的解析・行動学的解析・組織学的解析を行ってきた。特定の行動に関係する神経基盤を明らかにするために、in vivoでの神経活動測定が必要になり、スライス電気生理学および脳波測定の研究手法は持ち合わせていたが、その中間であるスパイク活動記録や局所電位記録の手法の経験はなかった。採択者はこれまで複数ラインのSZモデルマウスを用いてノンレム睡眠スピンドル波の解析を行い、臨床研究結果と同様に動物モデルでもノンレム睡眠スピンドル波の異常を検出している。 本研究では、統合失調症との関連性が報告されている視床網様核及び視床のin vivo電気生理学解析で世界的に著名な米国・Michael Halassa先生(共同研究開始時、マサチューセッツ工科大学所属。現在、タフツ大学所属)との共同研究を進め、テトロードによるin vivo電気生理学の手法及びそのデータ解析方法について習得することができた。本国際共同研究によりこれらのマウスラインの視床網様核のスパイク活動を直接測定することが可能になったため、現在、習得した測定方法・データ解析方法を用いて、細胞レベルのより詳細な機構を明らかにし、注意選択異常の神経基盤を明らかにしている。これらの成果をもとに治療薬の分子標的を今後探索する予定である。また、滞在中、自身の研究を紹介し、意見交換・議論を深め、本研究課題以外の研究課題についても助言を得ることができた。良好な国際共同研究関係を構築することができ、今後も連絡を取り合い、共同研究を継続する予定である。
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