研究実績の概要 |
近年、難治性副鼻腔炎は増加傾向にある。中でも鼻茸を伴う副鼻腔炎 (Chronic rhinosinusitis with nasal polyps; CRSwNP 好酸球性副鼻腔炎の多くの症例がこれに該当する。ヨーロッパの最新のガイドラインEPOS2020ではPrimary, diffuse, Type2, CRSに分類される)に対して治療戦略上のブレイクスルーが期待されている。その病態はA. 鼻粘膜上皮のバリア機能の低下を背景としたTSLPやインターロイキン33等のサイトカイン産生亢進を契機に、B. Th2優位の免疫応答(Type2炎症)が生じ、その結果として、 C. リモデリングが生じフィブリン網形成やコラーゲンの低下による浮腫が遷延し、鼻茸が形成されると考えられている。申請者らのグループはCRSwNPにおいて、鼻粘膜組織中にみられる亜鉛が低下していることを明らかにした。そこで、本研究課題ではこの組織中低亜鉛が上記のそれぞれの病態にどのように関与しているかを明らかにすることを目的としている。
本年度は、副鼻腔炎における低亜鉛を引き起こす原因を同定するために、メタロサイオニンの発現に注目した。メタロサイオニンは2価の陽イオンのキレート作用を持つタンパク質である。メタロサイオニンのプロモーター領域には亜鉛レスポンスエレメントが存在し、その発現を制御している。すなわち、細胞質内の亜鉛が増えるとメタロサイオニンの発現が亢進し、細胞質内の亜鉛をキレートし細胞内亜鉛ホメオスタシスを保っている。本研究によって、組織中低亜鉛とメタロサイオニン3の発現には相関があることが判明した。ただ、既報と総合的に鑑みると、今回同定されたメタロサイオニン3の発現低下は、低亜鉛の原因ではなく結果と考えられた。
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