研究課題/領域番号 |
18KK0445
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
水津 太 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (90431379)
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | オートファジー / 生体膜動態 / Pin1 |
研究実績の概要 |
プロリル異性化酵素Pin1は、リン酸化Serine/Threonine-Proline配列をもつタンパク基質の活性、細胞内局在、安定性を制御する重要な因子である。その制御破綻は、がんや神経変性疾患などの病態を示すことから、創薬における分子標的として注目されている。我々はこれまでに、原がん遺伝子産物Aktが、オートファジー(自食作用)や細胞から一本だけ形成される細胞性一次繊毛(細胞のマイクロセンサーとして機能する)を介した細胞内シグナル伝達機構を制御することを明らかにした。さらに、その制御破綻が、細胞生存や平面内細胞極性の制御異常につながり細胞のがん化や、や繊毛病の起因になる事を示した。一方、Pin1は、Aktの活性や発現安定化を促し、クラスリン依存的エンドサイトーシスや一次繊毛形成を正に制御することを見出した。本研究成果として、Pin1が初期エンドソームの形成を促す事、さらにはリソソームにおけるタンパク分解を促進することを明らかにしている。さらに、Pin1-Akt相互作用やシグナル伝達に関連するタンパク因子群が、生体膜リン脂質を介したオートファジー制御に重要な分子である知見を得た。しかしながら、それら関連因子群によるオートファジー制御の分子機構は明らかになっていない。今後は、Pin1による生体膜動態制御の分子機構を明らかにするとともに、Pin1-Aktに関連した結合因子によるオートファジー制御と、そのシステムを利用したがん細胞の生存戦略の分子機構解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、Pin1遺伝子欠損細胞における生体膜動態解析により、Pin1が、初期エンドソーム、オートファゴソーム、後期エンドソーム、リソソーム形成などのあらゆる細胞内膜動態制御に関わっていることを突き止めた。本年度は、Pin1に結合するエンドサイトーシス制御因子Xを同定した。因子Xは、リソソーム分解系を介したがん細胞の表面抗原や特異的受容体の分解を促進した。Pin1は因子Xを安定化し、癌特異的表面抗原の発現を抑える(分解を促進する)ことにより、免疫細胞によるがん細胞の攻撃(排除)回避に機能すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
同定されたPin1結合因子Xの機能解析を行うため、Pin1による因子Xの認識結合部位計3か所のリン酸化Serine/Threonine-Prolineサイトの点変異体(非リン酸化型、疑似リン酸化型)を作成し、相互作用、安定性制御、細胞内局在解析とともに、初期エンドソーム、オートファゴソーム、後期エンドソーム、リソソーム形成などの生体膜動態制御解析を進める。また同時に、因子Xのリン酸化を担うキナーゼ同定を進め、リン酸化シグナル伝達における因子Xの生物機能を明らかにする。また、因子Xの発現に依存したがん細胞に対する、抗がん剤、癌表面抗原の中和抗体、オートファジー阻害剤などの処理によるがん細胞の細胞死効果を評価する。また患者由来の癌細胞移植によるマウス腫瘍形成モデルにおける抗腫瘍効果も検討する。
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