研究実績の概要 |
本研究では、ウイルスおよびウイルス由来エレメントによる病態発現機構について、実験ウイルス学(ウェット研究)とマルチオミクスデータのバイオインフォマティクス解析(ドライ研究)のアプローチからの解明を目的とする、学際融合研究である。計画1については、エイズウイルス感染動物モデルを用いたウイルス学実験(ウェット研究)を実施し、その検体のマルチオミクスデータを取得した。そして、得られたデータのマルチオミクス解析(ドライ研究)により、ウイルスの感染病態を規定するさまざまな細胞性因子の同定と制御ネットワークの描出に成功している。本年度は、この研究成果をまとめ、論文化した(Aso et al., Cell Rep, 2020)。計画2については、計画1で得られたデータとがん患者臨床検体の大規模マルチオミクス解析(ドライ研究)により、内在性レトロウイルスに由来する遺伝子発現制御エレメントが、細胞の抑制性転写因子ファミリーの発現を正に制御し、がんの形質を規定する遺伝子群の発現制御に関わる可能性を見出した。すなわち、ウイルスに由来するエレメントが、がんの形質・病態の制御に関与している可能性を示唆するデータを得た。さらに、公共データを用いた大規模メタゲノム解析(ドライ研究)により、内在性レトロウイルスが、ほ乳類の進化の過程において、ウイルス抵抗遺伝子であるAPOBEC3遺伝子ファミリーの進化を促進する推進力となっていることを明らかにし、論文化した(Ito, Gifford, Sato, PNAS, 2020)。 予定していた渡航と研究打ち合わせは、新型コロナウイルスのパンデミックにより実行できなかったため、オンライン会議を実施することで代替した。
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