2019年2月から2020年1月まで1年間、アメリカのボストンに滞在し共同研究を行った。昨年度に立案した3つの実験計画に取り組んでいくなかで、最終的には1つ目の研究計画である嗅粘膜の可視化がメインテーマとなった。まずヒトおよびマウスの鼻粘膜の全ゲノムシークエンス解析から、嗅粘膜と呼吸粘膜の遺伝子発現を比較し、嗅粘膜に特異的に発現している生体内変換酵素の遺伝子を複数同定した。次にこれらの遺伝子の鼻粘膜における発現を定量的PCRで解析するとともに、対応するタンパクの発現および局在を免疫組織学的検討にて行った。さらにシングルセルシークエンス解析にて発現する細胞の解析を行った。次にこれらにより同定された酵素の基質に着目をした。これらの基質のうち、鼻粘膜で代謝され、蛍光発光するものを複数同定した。この基質のプローベを用いてマウスの嗅粘膜のイメージングを検討した。この検討では、基質のプローベとそれに対応する特定の波長をもちいることで、嗅粘膜のみが蛍光発光することが確認され、嗅粘膜を特異的にリアルタイムに観察できることを明らかにした。また同時並行でhigh-throughput screeningによる嗅覚障害の治療薬の検討、およびDichrobenilが嗅球におけるシグナル伝達に及ぼす影響の検討も行った。さらに臨床的な計画の遂行状況としては、手術やセミナー等に参加することで知見を深めた。本年度、嗅覚専門外来や手術の見学及び手術時のヒトの検体採取を行った。
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