本研究は,頭蓋内環境に関する複数の機能情報を一度の磁気共鳴イメージング(MRI)検査で取得し,統合的に解析するシステムを確立することを目的とする.特に,拡散強調画像(DWI)とフェーズコントラストMRIを用いた局所脳血流量(rCBF)の定量手法を開発し,撮像時間の短縮とロバスト性の向上を図った.本研究で提案する局所脳血流量の定量手法の概要は次の通りである.まず,3TのMRIにおいて拡散傾斜磁場強度(b値)を段階的に変化させながら脳のDWIを取得し,多重指数関数を使用した拡散解析によって灌流成分の拡散係数画像を作成する.次に,フェーズコントラストMRIを使用して左右の内頸動脈および椎骨動脈の時間血流量から総脳血流量を算出する.灌流成分の拡散係数と脳血流量の線形性を利用して,総脳血流量を重みづけし,それを灌流成分の拡散係数画像の脳実質領域に割り振ることによってrCBF画像を算出する. 令和5年度は,本解析手法のロバスト性を向上させるために前処理として主成分分析によるDWIのノイズ低減処理を加えた.その結果,撮像時間を短縮するためにb値を従来の11点から4点に削減してもrCBF定量画像に大きな違いはなく,灰白質と白質の血流コントラストは保持されていた.灰白質と白質におけるrCBF測定値はb値数が11点と4点の場合で有意差はみられず,これらの測定値は[15O]-H2O PETを用いた文献値とも概ね一致した.また,本手法で得られたrCBFは,arterial spin labelingによるrCBFとも正の相関を示した.以上の結果から,b値数を11点から4点に減らしても高精度なrCBFを定量可能であることが示された. なお,新型コロナウイルス感染症の流行により渡航期間が180日未満となっているが,帰国後もメール等を活用して共同研究者との連携を継続することによって研究を完了した.
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