アルコール依存症患者では、消化管感染症が主な死因の一つとなる。アルコール依存症患者では、腸内細菌叢の変化と腸管の深刻な損傷が起こり、腸内細菌が腸管外へ容易に移行するが、免疫不全状態の為移行した菌を排除できず致死的な感染症を起こす。一般的な感染症に対する治療は抗生剤使用であるが、耐性菌発生を誘引から抗生剤使用以外の方法で感染抵抗性を回復させる治療が切望されている。 マクロファージの活性型には、個体を感染抵抗性にするM1マクロファージ/単球と、抗菌効果を持たずM1マクロファージ/単球の出現を阻害するM2マクロファージ/単球の2種類がある。我々は、①アルコール依存症患者において高密度に分布するM2b単球が、宿主の感染抵抗性を牽引するM1単球の出現を阻止し、その結果感染抵抗性が低下する事、②断酒によりM2b単球消失とM1単球出現が可能となり、感染抵抗性を甦らせうる事を基課題にて明らかにした。しかし、断酒の継続は非常に難しい為、断酒と並行して患者の感染抵抗性を回復させる別の治療法が必要である。 アルコールは、直接作用により細胞内のmiR-27a発現を増大させ、単球をM2b単球/マクロファージへと誘導する。一度誘導されたM2b単球/マクロファージは、自身の生存維持に必須なサイトカイン(CCL1)を産生し、長期に渡り生存し続ける。我々はテキサス大学と共同で、M2bマクロファージにおいて長鎖型non-coding RNAであるGrowth Arrest Specific 5(GAS5)遺伝子 (CCL1遺伝子の発現を抑制する遺伝子)発現が著しく低下している為、CCL1の産生が維持され、結果的に同細胞の延命が保たれる事を発見した。現在は、GAS5遺伝子治療によりCCL1の産生を抑制しM2b単球を消失させ、アルコール依存症患者に感染抵抗性を甦らせる事を試みている。
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