研究課題/領域番号 |
18KT0001
|
研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
高橋 若菜 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (90360776)
|
研究分担者 |
吉田 綾 国立研究開発法人国立環境研究所, 資源循環・廃棄物研究センター, 主任研究員 (10442691)
伊藤 俊介 東京電機大学, システムデザイン工学部, 教授 (50339082)
沼田 大輔 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (70451664)
|
研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2022-03-31
|
キーワード | 国際規範 / 環境 / パラダイム / 欧州 / アジア |
研究実績の概要 |
本研究は、循環型社会・低炭素社会形成に関連する国際規範におけるパラダイム・シフトを通時的に明らかにし、国際規範が、経済レベルが異なる欧亜諸国(OECD諸国、中進国、非OECD諸国の三層)において、どのように受容され内面化されてきているかを、動態的に比較分析し解明することを目的としている。その上で、受容が異なる理由や政治的課題を多視点的に推論することも目指している。 研究3年目となる令和2年度は、初年度に議論した方法論の概念や手法を用いて、論文執筆や学会での共同発表を続行した。例えば、廃棄物資源循環学会にて、経済的合理主義に該当する政策デポジット制度の国際的普及を歴史的制度論の観点から俯瞰し、日中の自動回収機を活用したペットボトルの店頭回収の事例を位置づけた。 他方、本研究は海外調査が必須であるが、令和2年度もコロナ禍により断念せざるを得なかったため、問題意識は変えることなく、研究の力点や方法を変更した。すなわち、これまでの研究から、日本では政策および人々の認識の双方において行政的合理主義が強く、経済的合理主義やエコロジー的近代化へのパラダイム・シフトを阻み、時にプロメテウス派へのバックラッシュがある傾向が析出されていた。そこで第一に、プロメテウス派へのバックラッシュの事例として、低炭素社会のために原発依存へ回帰が進みつつある状況に着目し、環境国際規範への乖離が後景にあると仮説をたて、その検証を進めた。第二に、日本におけるパラダイム・シフトはいかにすれば可能なのか、市民社会における学習や協働を促進させ、エンパワーメントをはかることは有用かを検証するため、コロナ禍でもできる社会的実験を行った。具体的には、オンラインで市民や学生に関連する映画を見てもらい、ワークショップにて議論を行い、人々の認識枠組が「エコロジー的近代化」へと変化しうるのかを、事前・事後アンケートにより確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、コロナ禍で1年以上海外調査が不可能となり予算執行が遅れたため、やや遅れていると判断した。 ただし、これまでの研究をもとに、論文執筆や学会発表を行うなど、進展はある。例えば、経済的合理主義に該当する政策デポジット制度の国際的普及を歴史的制度論の観点から俯瞰し、日中の自動回収機活用ペットボトル店頭回収の事例を位置づけた。共同研究成果は、廃棄物資源循環学会で発表した。分担者吉田は、分担生ごみ分別収集・バイオガス化の導入に成功した中規模都市の事例についての比較研究から導入成功に至った経緯・条件を考察した。 さらに、海外調査ができない状況に鑑み、問題意識を変えることなく、研究の力点や方法を変更した。すなわち、これまでの研究から、日本国内では行政的合理主義が強く、経済的合理主義やエコロジー的近代化へのパラダイム・シフトを阻み、時にプロメテウス派へのバックラッシュがある傾向が析出されていた。そこで第一に、プロメテウス派へのバックラッシュの事例として、廃棄物エネルギーを含む多様な再エネ・省エネの可能性や原発事故検証も不十分なままに、脱炭素社会のためとして原発回帰が進みつつある状況に着目し、後景に環境国際規範への乖離があると仮説をたてた。実際に、検証を進め、論文を公表した。第二に、日本におけるパラダイム・シフトはいかにすれば可能なのか、市民社会における学習や協働を促進させ、エンパワーメントをはかることは有用かを検証することとし、社会的実験を行った。具体的には、オンラインで市民や学生に関連する映画を見てもらい、ワークショップにて議論を行い、人々の認識枠組が「エコロジー的近代化」へと変化しうるのかを、事前・事後アンケートにより確認した。アクションリサーチとして行われたこの社会的実験を通じて、学習や協働が、人々の認識変化や行動変化に資することが確認でき、その様子を座談会記録にまとめた。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、パラダイム・シフトの国際比較という研究テーマからして、海外での広範なフィールド調査の実施が必須である。しかしながら、COVID-19の世界的パンデミックという非常事態により、研究2年目(令和元年度)から3年目(令和2年度)にかけて、海外渡航の中止を余儀なくされ続けている。このため研究期間の1年延長を申請した。しかし、4年目となる本年度(令和3年目)においても、厳しい状況は変わらず、今年度内にフィールド調査を実施できるかの見通しは不透明である。このような当初予測されなかった状況の出現のため、研究計画の一部を変更し、本年は以下の推進方策を予定している。 1)海外調査を行うことが可能になった場合、速やかに渡航できるように、準備を進めておく。 2)問題意識は変えることなく、研究の力点や方法を変更した二つの研究を続行する。第一に、低炭素社会のために原発依存へ回帰が進みつつある状況の後景に、環境国際規範への乖離があるとする仮説の検証をさらに進める。第二に、日本におけるパラダイム・シフトが可能かを検証するための社会的実験を、引き続き行う。具体的には、オンラインで市民や学生に循環型社会や低炭素社会形成に関わる映画を見てもらい、ワークショップにて議論を行い、人々の認識枠組が「エコロジー的近代化」へと変化しうるのかを、事前・事後アンケートにより確認する。昨年に引き続き、学生主体で、アクションリサーチのような方法で実施する。 3)以上についての研究成果を、2冊の書籍にまとめることに注力する。1冊は、循環型社会形成に関連する国際規範におけるパラダイム・シフトを、国際比較を通じながら捉え、SDGs時代の多目的型の循環型社会形成を展望する。もう1冊では、低炭素社会のためと称した原発依存回帰を、パラダイム・シフトのバックラッシュと捉え、その構造的要因や処方箋を環境国際規範と照らし合わせ論じる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度に多大な使用額が生じた理由は、2年目(令和元年度)と3年目(令和2年度)の未使用額が累積したことによる。すなわち、COVID-19の世界的パンデミックという非常事態により、海外渡航の中止を余儀なくされた。これにより、複数名の欧州およびアジアへの海外旅費の執行が不可能となった。 このため、当初は研究期間が令和2年度までの3年間であったところを、1年延長申請し、令和3年度への期間延長が認められた。しかしながら、4年目となった令和3年度に入っても、COVID-19の世界的パンデミックは続いている。今年度内に追加のフィールドスタディを実施できるかについて、現時点(令和3年5月)において見通しはたっていない。 このため、本年度としては、以下の使用計画をたてている。第一に、旅費については、引き続き可能性を模索し、海外渡航が可能になった時点で速やかに実施する。第二に、研究の力点や方法の変更による支出項目の変更である。具体的には、アクション・リサーチを実施するための人件費や、映画上映会社との契約費用、アンケート収集分析等のためのシステム利用費(Survey Monkey)、通信費、また関連の図書利用費等に使用する。第三に、2冊の書籍出版等にかかる諸費用の支出である。
|