研究課題/領域番号 |
18KT0008
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
吉田 文彦 長崎大学, 核兵器廃絶研究センター, 教授 (30800007)
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研究分担者 |
毛利 勝彦 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (00247420)
目加田 説子 中央大学, 総合政策学部, 教授 (00371188)
向 和歌奈 亜細亜大学, 国際関係学部, 講師 (00724379)
水本 和実 広島市立大学, 付置研究所, 教授 (20305791)
広瀬 訓 長崎大学, 核兵器廃絶研究センター, 教授 (50238789)
永井 雄一郎 日本大学, 国際関係学部, 助教 (50749033)
遠藤 誠治 成蹊大学, 法学部, 教授 (60203668)
冨塚 明 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (70164027)
鈴木 達治郎 長崎大学, 核兵器廃絶研究センター, 教授 (80371219)
中村 桂子 長崎大学, 核兵器廃絶研究センター, 准教授 (90646100)
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | 核抑止 / 核リスク / 核軍縮 / 先端技術 / 核兵器システム / 人間の安全保障 / 地球安全保障 / 人類の安全保障 |
研究実績の概要 |
現在の世界では、核保有国・核武装国・核の傘国が核抑止政策を寡占する状況が存在する一方で、核抑止に内在するリスクに適切な対抗手段を持たない圧倒的多数の非核国が並存する。両者の間のギャップを埋めない限り、グローバル化する世界の「全体最適」に資するような安全保障を構築するのは困難だろう。本研究ではそうした視座に立ち、核抑止に依存する国家安全保障、国際安全保障が直面する矛盾を解析し、「核リスクの極小化」を全体最適化の要諦と位置付けて、グローバル化時代に適合した持続可能かつ共有可能な安全保障論を構築していく。新たな政策提言も目指している。 この基本的枠組みを念頭に、研究チームを3つのグループに分けて、2018年度は基礎的文献・資料の収集、海外での先端的研究の調査、主たる研究課題の絞り込み等に取り組んだ。核抑止リスク分析グループ(吉田文彦、遠藤誠治、水本和実、向和歌奈)は、核抑止・核テロを含むグローバルな核リスクの極小化に向けた理論的考察を行った。人間の安全保障と核軍縮分析グループ(毛利勝彦、目加田説子、広瀬訓、中村桂子)は、人間の安全保障論、地球安全保障論と核軍縮の関係の分析と事例研究を進めた。最先端技術リスク分析グループ(鈴木達治郎、冨塚明、永井雄一郎)は、サイバー技術や人工知能(AI)などの先端技術台頭による潜在的脅威と、国際秩序への先端技術応用可能性の分析に注力した。 また、3つのグループの研究の進捗を踏まえながら、新たな安全保障理論の構築、政策提言について研究するグループ=新安全保障論・政策提言グループ(吉田、遠藤、毛利、鈴木)を発足させ、先行研究調査、本研究チーム外の専門家との意見交換等を開始した。これまでに得られた知見を活用する形で学会発表や論文、書籍を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の3つのグループは概ね以下のような分担を決め、分担分野における深堀りと研究者間の連携を通じて調査・分析を前進させている。 核抑止リスク分析グループ――吉田=核戦争を想定した「核の傘」が日本の安全保障にとって過剰なリスク要因である現状の分析/遠藤=国際政治学の視点から核抑止論の問題と限界を総括的に検討/水本=日本の核政策の沿革、現状と課題(特にリスク面)の分析/向=軍縮不拡散政策と安全保障政策の狭間で日本が直面する「クレディビリティ・クライシス」の分析。 人間の安全保障と核軍縮分析グループ――毛利=国連事務総長の「軍縮のためのアジェンダ」における「核軍縮と持続可能な開発」の意義の分析/目加田=オタワ・プロセスから核兵器禁止条約にいたる「人道的軍縮」の歴史的分析/広瀬=核使用が人道に対する罪、戦争犯罪に該当するかどうかの国際法的論議の分析/中村=核兵器禁止条約おける新しい安全保障観(人類の安全保障)に関する基礎的調査。 最先端技術リスク分析グループ――鈴木=サイバー・AI兵器の軍事的応用に関する基礎的調査・分析/冨塚=核兵器近代化や新型の戦略的運搬に関する分析/永井=宇宙兵器の種類と拡散の可能性に関する分析。本グループは全体として、先端技術が核兵器システムに与える新たなリスクを考察していく計画である。 主な活動を例示すると、ワシントンDCで開催された「2019カーネギー国際核政策会議」で最新分野の研究者とのネットワークを拡げた。コーネル大学等の核リスク専門家とも交流し、情報収集を行った。英国オックスフォードで開催された国際人道法と核兵器の関係のセミナーにも参加したほか、朝鮮半島における「人道的軍縮」の実践と意義についてソウルで調査を行った。こうした研究活動の結果、最終成果物に向けた研究の基本的枠組みや集中的に分析すべきエレメントの特定、優先順位の設定等で大きな進展をみた。
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今後の研究の推進方策 |
学術的成果物としては複数の学術論文発表、政策提言書作成等が想定されるが、研究全体を総括する主要な成果物としては書籍の出版を計画している。 そのいずれもを念頭に置きながら各研究者が研究報告の第一次ドラフトを2019年8月末までに作成する。9月に研究チームの全体会合を2日にわたって東京で開催し、第一次ドラフトを個々の研究の中間成果物として報告して、今後の課題等について集中討議を行う。新安全保障論・政策提言グループでは大局的な視点から検討すべきテーマ、具体的アジェンダについても討議する。全体会合の後、各研究グループで研究会を開催したり、ヒアリングをしたりしながら分析を進める。2019年3月までに第二次ドラフトを作成し、総合的な意見交換、討議を踏まえて最終成果物に向けた完成度を高めていく。必要に応じて研究チーム外の専門家を招いたワークショップを開催し、第二次ドラフトに対するレビューとコメントを求めて、書籍の出版、政策提言の作成に活かしていくことも検討する。 さらには個別テーマの研究過程において得られた知見に基づいて、随時、各研究者が論文等を発表していく。学術論文に関しては、長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)編集、英国のTaylor & Francis社発行の英文国際学術誌:Journal for Peace and Nuclear Disarmamentへの投稿(査読付き)を計画している。書籍については出版社と交渉中で、書籍用原稿の締め切りを2020年の夏ごろに仮設定して準備を進めていく。政策提言に関しては、RECNA刊行の随時出版物である「RECNA Policy Paper」等を発表の媒体として想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は研究計画の全体的な枠組み、個別の研究分野の分担、最終成果物への作業工程作成に注力して海外での調査研究を少なめに抑えたため、海外出張旅費が当初計画より少額になった。文献、資料収集に力点を置き、研究者の中には図書館でデータベースでの情報収集に集中し、研究費使用がゼロのケース(冨塚、中村)もあるが研究計画は支障なく進んだ。 上記を踏まえた2019年度の研究費使用計画の概略は以下のようなものである。核抑止リスク分析グループは、①核先制不使用政策の効用、②日本の「クレディビリティ・クライシス」の検証、③「核の傘」のリスク研究等のため、米国や欧州諸国、韓国等で調査研究を予定している。人間の安全保障と核軍縮分析グループでは①軍縮法と人道法、刑事法等の複合的な法的枠組みに基づく核兵器保有・使用の「違法性」の研究、②人道的軍縮先進国のノルウェーなどの理念・政策調査等のため、旅費に本助成金の多くをあてる。 最先端技術リスク分析グループは2019年度中に研究会を実施し、国内外からミサイル防衛、超音速ミサイル、サイバー、AIの専門家を招いて研究の深化をはかる。新安全保障論・政策提言グループも海外調査で理論的考察を加速させる。いずれのグループも海外出張旅費だけでなく、必要な国内外の文献・資料の収集にも研究費を活用し、費用対効果を念頭に置きながら研究計画目標の達成を目指す。
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