研究課題
肥満・インスリン抵抗性では、高血圧・糖尿病・脂肪肝炎など、心血管調節・糖脂質代謝・炎症に及ぶ多系統で複雑な生理機能の制御異常が引き起こされるが、その病態理解は個々の疾病ごとに行われ、系統的な発症メカニズムの解明は成されていない。そこで、肥満・インスリン抵抗性で引き起こされるこれらの生理機能の制御異常を、臓器連関による代謝制御とその異常という観点から系統的に解明を進めている。2018年度には、α7型ニコチン受容体欠損による脳・肝連関障害が、インスリン抵抗性・耐糖能異常とともに、非アルコール性脂肪性肝疾患の増悪を引き起こすことを見出した。これらの知見は、臓器連関の破綻が、生活習慣病での多系統の生理機能制御異常を誘導することを示していた。本年度には、腎・肝・筋の臓器連関の破綻が、生活習慣病に及ぼす作用についての検討を進めた。具体的には、腎臓糖排泄促進剤であるSGLT2阻害剤投与による耐糖能の増強が、肝臓糖脂質代謝に及ぼす作用を検討した。SGLT2阻害剤投与は、インスリン感受性状態では、血糖値を低下させ、肝糖新生を亢進させた。一方で、過栄養インスリン抵抗性モデルでは、SGLT2阻害剤投与は、肝臓インスリン抵抗性を改善し、肝糖新生を減少させ、非アルコール性脂肪性肝疾患を改善させた。この作用メカニズムには、肝臓における脂肪酸合成酵素・アセチルCoAカルボキシラーゼの遺伝子発現変化とともに、筋肉での脂肪燃焼が関与する可能性が考えられた。肝臓でのこれらの遺伝子発現の変化は、肝臓脂肪合成を抑制する。実際に、本研究においても、SGLT2阻害剤の投与によって、肝臓中性脂肪量が減少することを確認している。これらの知見から、腎臓グルコース排泄の増加が、血糖値・血中インスリン値の変化を介して、骨格筋および筋肉でのインスリン作用および糖脂質代謝と関連することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度には、腎臓糖排泄促進剤であるSGLT2阻害剤を用いて、腎・肝・筋の臓器連関が、肝臓での糖脂質代謝・炎症の両者と密接に関連することを見出した。実際に、SGLT2阻害剤投与は、過栄養インスリン抵抗性モデルにおいて、肝臓インスリン抵抗性を改善し、肝糖新生を減少させ、非アルコール性脂肪性肝疾患を改善させた。また、これらの作用メカニズムには、血中のグルコースおよびインスリンを介することを解明した。今後、これらの腎・肝・筋の連関における迷走神経の役割の解明が必要である。本年度には、肝臓でのグルコース6リン酸脱リン酸化酵素、脂肪酸合成酵素やアセチルCoAカルボキシラーゼの発現制御が、腎・肝・筋の臓器連関による肝臓糖脂質代謝制御に関与する可能性を見出した。今後、これらの臓器の臓器連関バイオマーカーとしての有用性の検討する。
今後は、臓器連関破綻を呈する食餌性肥満モデルおよび、SGLT2に代表されるインスリン抵抗性改善剤の両者を用いて、肝臓を中心とした臓器連関について、特に迷走神経を介した連関について、そのメカニズムの解明を行う。臓器連関のバイオマーカーとしては、肝生検サンプルからの解析が可能なように、肝臓遺伝子発現変化を示す遺伝子群を用いる。今年度には、肝臓のグルコース6リン酸脱リン酸化酵素および脂肪酸合成酵素の遺伝子変化と、臓器連関による肝臓機能制御の相関について、検討する。両遺伝子のプロモーター活性のレポーターマウスを用いて、同一個体で経時的な遺伝子発現解析を行うことで、両者の相関を詳細に解析する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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