研究課題
統合失調症は、遺伝的・環境的要因が複雑に絡み合う多因子疾患であることが知られており、患者の発症前・後の状態を一貫して解析することが重要であると考えている。本研究では、クロザピン抵抗性化まで進行した患者を選択し、患者iPS細胞を神経幹細胞、未成熟神経細胞、および成熟神経細胞に分化させ、それぞれの細胞における神経機能の異常を明らかにすることによって、発症前の幼少期、発症オンセット、発症後、その後の治療抵抗性化、さらにはクロザピン抵抗性化という各ステップの分子病態を明らかにすることを目的にしている。また、同定した分子メカニズムをもとに、患者の血中DNAといったバイオリソースを駆使して、治療応答性のバイオマーカーの開発を実施することをめざしている。今年度は、一卵性双生児患者例やクロザピン応答性不一致例患者のiPS神経細胞で共通して変化していた遺伝子群について、当該患者の血液サンプルから全RNAを調製し、RNA発現解析を実施した。ZNF578遺伝子などの転写因子をコードする遺伝子群について、クロザピン応答性患者では応答しない患者に比べて患者iPS神経細胞のみならず血液細胞でも発現量が高いことが明らかになった。また、概日リズムに関わる分子群についても同様にiPS神経細胞のみならず血液細胞において共通する発現変化が見られた。また、患者群の臨床データの解析を実施した。iPS細胞関連技術を用いた治療応答性に注目した統合失調症研究の報告例はほとんどなく、同定した分子病態をさらに解析することにより、新たな統合失調症の分子病態が明らかになるのみならず、治療応答性のバイオマーカーの開発につながる成果を得られることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
これまでの治療抵抗性統合失調症の一卵性双生児患者例やクロザピン応答性不一致例患者例から樹立したiPS神経細胞において、クロザピンに応答する患者と応答しない患者間で発現量に違いがある遺伝子群を同定してきた。本年度はその一部の遺伝子群について、当該患者の血液細胞でも同様の共通する遺伝子発現量の差違を同定することができた。本成果は、患者の末梢血サンプルやゲノムDNAを活用した、病態進行や副作用発現の予測をするバイオマーカーの開発につながるものと期待され、本計画は順調に進展していると考えている。
引き続き、一卵性双生児患者、クロザピン応答性不一致例患者、統合失調症多発家系患者由来のiPS神経細胞を用いて、クロザピンへの応答性が異なる分子基盤を患者細胞を用いて明らかにする。特に、iPS神経細胞の神経機能の異常を明らかにすることが重要であると考えており、分子細胞生物学的実験を推進する計画である。明らかにした分子基盤を礎に、患者の血中RNA、脳MRI画像、あるいは認知機能等の臨床情報を考慮し、発症や病気の進行、悪化、あるいは治療薬の副作用発現を予測するバイオマーカーの開発を実施していく計画である。
患者由来血液細胞の網羅的RNA発現解析について、複数の機関で実施した関係でRNA発現解析結果のとりまとめに予想より多くの時間を要した。従って、RNA発現解析結果を踏まえた分子細胞生物学的実験を次年度に実施する計画である。また、それに付随して、患者の治療履歴や脳機能データといった臨床データの解析も実施する計画である。次年度使用額はそれらの研究計画に用いる。
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