研究課題/領域番号 |
18KT0030
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
小西 公大 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (30609996)
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研究分担者 |
飯田 玲子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特定助教 (10757587)
山本 達也 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (70598656)
佐本 英規 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 助教 (60822749)
平田 晶子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (70769372) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2022-03-31
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キーワード | 音楽の継承 / メディエーション / 社会的美学 / 創造的コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本研究は「音楽の継承」を切り口とし、世界各地における多様な民族誌的データを駆使しながら「学び」の可能性を具体的な音楽教育に落とし込むための理論構築を行う事を目的としている。本年度も引き続き各メンバーのもつ既存のデータを提示し合いながら、非認知能力を伸ばす次世代教育への接合の可能性を模索するためのすり合わせ作業及び理論的側面の深化をはかった。 本年度はコロナ状況下で、我々人類学者にとっての生命線ともいえるフィールドワークの敢行が困難を極め、これまで構築してきた理論的蓄積をもとに生まれた新たな研究視座をもとに現場経験を積み重ねることができなかった。各メンバーはこれまでに入手したデータに再度向き合わざるを得なくなり、本科研の核となる「継承」と社会的美学の問題というテーマに沿って、各々の調査における経験とデータを再構築する作業に終始することとなった。 一方で、コロナ状況下でのアカデミズムを取り巻く共同研究の方法論が根底から刷新された部分もあり、データのシェアや意見交換のオンライン化、ワークスペースなどのプラットフォームのクラウド化などが進み、これまで対面で行われてきた年に2回ほどの研究会が、オンラインを通じて月に一回開催されるなど、メンバー間での研究に対するモチベーションを維持しつつ研究内容を深めていくための対話の場が回数多く設けられるなど、メリットと感じられる部分もあった。その結果、実際に音楽教育に携わる方々の招聘や、人類学的発想に偏った研究視座の修正などを進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の理由として、新型コロナウィルスの蔓延によってフィールドワークの敢行が困難(不可能)となったことが挙げられる。人類学は理論的構築とともに現場での経験やデータ収集作業が大きな意味を持ち、その双方で構成される知の循環によって新たな発想と研究視座を構築していくことが重要となる。フィールドに出ることができない状況下では、この2つの柱の一つを失うことを意味し、その意味で常に刷新されるべきデータと論理構成が、既存の研究の蓄積の再構築といった過去に向かわざるを得ない状況となった。 一方で、オンライン化(ビデオチャットツールの活用や情報シェアのための場を仮想空間へ移築)の促進は、これまでになかった共同研究の可能性を開いたともいえる。参加メンバーは北海道から北陸・関西エリアなど広範に散らばっており、これまで研究会の開催に困難が生じていたが、研究会をオンライン化することでその問題が解消されている。また土日祝日など「休日」を開催日にする必要がなく、平日の夜遅くにミーティングの開催をすることができるようになった。また、研究会での議論内容を録画し、動画シェアサービスなどを利用してシェアすることが可能となり、いつでも対話の軌跡を確認したり復習したりすることが可能となった。 こうした研究のプラットフォームの大いなる改善は、メンバー間の意思の疎通を増強し、理論構築に向けたより深い対話を可能とした。一方で新たなデータやフィールド経験が得られていない状況下で、どこまでオンタイムな研究業績をあげていくことができるのか、課題は多い。
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今後の研究の推進方策 |
全メンバーによる理論的基盤の共有や個別の研究領域のすり合わせ作業が進められているが、来年度以降は、(a)音楽継承プロセスにおける身体性、(b)音楽継承プロセスにおける情動性、(c)音楽継承プロセスにおける制度化の3つのカテゴリーからなる分業体制をより強化し、研究と実践活動の一層の深化をはかる。 各メンバーは上記の3つのカテゴリーに配置され、それぞれの着眼点から研究の照準をある程度個別化して整理を行い、全体でシェアしていくという分業作業を進めている。特に音楽・芸能・儀礼の場における音の継承がどのような空間で、どのようなアクターによって、どのようなメカニズムにおいてなされていくのかを分析し、音楽と社会をつなぐホリスティックなメディエーション機能の、些末で具体的な現状を把握するための、映像資料を活用した分析作業を進める予定である。 また、研究協力者として名を連ねる石上(音楽教育)・宮内(作曲家)両氏、また大学院生として参加している複数の学生たちとともに、コロナ状況下で創造性をフルに発揮しなければならない状況に追い込まれている音楽教育の現場における状況を明確に把握し、「継承」「学習」のもつ意味そのものを捉え直していく作業も展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的に問題化している新型コロナウィルス感染症の影響下で、国内外を問わず現地への調査(フィールドワーク)が不可能になったことが挙げられる。そのため、各研究分担者・研究協力者への補助金を大幅に減少し、コロナ状況の改善が見られたタイミングでフィールドにおける集約的な調査が行えるように分担額を調整した。また、学会や研究会のオンライン化が進み、学術的なイベントにかかる旅費の支出が減少したことも挙げられる。 今年度の支出金の使途の多くが消耗品に偏っているのは、ステイホーム状況における文献研究へのニーズが増えたこと、今後のフィールド調査に向けた調査用ガジェットの準備等に科研費が使用されたことによる。
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