研究課題
本研究の目的は、バイオミメティクスの観点を導入した新規な植物保護法の確立であり、平成30年度から4年間で計画されてる。具体的なテーマは下記のとおりである。1)昆虫が登れないナノパイル構造の活用、2)昆虫が嫌う振動を利用した害虫制御、3)昆虫の食害により毛茸に蓄積する植物二次代謝物質、4)生物規範型匂いセンシングによる害虫/食害植物の診断 から成り立っている。平成30年度では、特に2)と3)で顕著な進捗が得られた。2)トマトの害虫であるコナジラミ類に対して、栽培施設内に設置した振動発生装置による防除試験をおこなったところ、行動制御による害虫の密度抑制の効果が明らかになった。また、果樹の害虫であるクサギカメムシにおいて、卵殻の破砕により生じる、持続時間の短い振動を特定した。この振動のプレイバック試験を行ったところ、胚が応答して孵化の促進がおこったことから、振動により同期孵化がおこることが示された。3)ハスモンヨトウ抵抗生品種のダイズ(ヒメシラズ)毛茸に蓄積する3化合物を認め、これらの構造をフラボノールであるケンフェロールの配糖体と決定した。精製した化合物をハスモンヨトウに摂食せさたところ、2化合物に摂食阻害活性を認めた。これらの化合物は毛茸に蓄積されており、害虫の食害によって滲出すると示唆された。これら2化合物は、ハスモンヨトウの行動を制御する化合物である。さらに抵抗性ダイズにハスモンヨトウの生理を撹乱する化合物の存在も新たに見出した。本化合物は幼虫の囲食膜の生合成を阻害する。その生合成阻害をモニターする簡便な試験系を確立した。
1: 当初の計画以上に進展している
栽培施設内に設置した振動発生装置による防除試験をおこなったところ、トマトの害虫であるコナジラミ類の密度抑制効果を確認した。果樹の害虫であるクサギカメムシにおいて、卵殻の破砕により生じる、持続時間の短い振動を特定した。この振動によりカメムシの同期孵化がおこることを示した。前者はAppl Entomol Zool 54:21-29に、後者はCurrent Biology 29:143-148に発表した。また、ハスモンヨトウ抵抗性ダイズから、上述の非選好性に関わる物質の他にも幼虫の生理を阻害する(抗生性)物質の存在を認めた。本化合物は幼虫の囲食膜の生合成を阻害する。その生合成阻害をモニターする簡便な試験系を確立し、Biosci. Biotech. Biochem. (accepted) に発表した。以上、当初の計画以上に進展している。
平成30年度に得られた成果を基盤にして、令和元年度には更に研究を展開する。具体的な方針を下記に記す。・我々が確立した試験系でモニターしながら、抵抗性品種(ヒメシラズ)の抗生性を示す活性物質を単離・精製し、同定する。・複数成分の比率を正確に検出する生物規範型匂いセンシングの機構を明らかにする。・種々のナノパイル構造における昆虫の滑落のしやすさを比較検討する。
平成30年度は研究が順調に推移したため、想定した消耗品費(物品費)の使用が少なくて済んだ。しかしながら、十分な成果が得られた。特に、下記の2点は特筆できる成果である。1)昆虫の食害によりダイズのトライコームに蓄積する3化合物を同定し、生物試験の結果、そのうち2化合物に摂食を阻害する活性を認めた。2)トマトの害虫であるコナジラミ類に対して、栽培施設内に設置した振動発生装置による防除試験をおこなったところ、行動制御による害虫の密度抑制の効果が明らかになった。平成31年度の補助金と合わせて、これらの成果を中心にバイオミメティクスを応用した植物保護技術の開発を進める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Biosci. Biothechnol. Biochem
巻: 83 ページ: 印刷中
10.1080/09168451.2019.1611407
eLife
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https://doi.org/10.7554/eLife.43045
Biosci., Biotechnol. Biochem.
巻: 82 ページ: 1309-1315
: 10.1080/09168451.2018.1465810.
http://www.chemeco.kais.kyoto-u.ac.jp/