研究課題/領域番号 |
18KT0042
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 直樹 京都大学, 農学研究科, 教授 (30293913)
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研究分担者 |
高梨 琢磨 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60399376)
光野 秀文 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (60511855)
針山 孝彦 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 特命研究教授 (30165039)
平井 悠司 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 准教授 (30598272)
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2022-03-31
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キーワード | バイオミメティクス / ダイズのハスモンヨトウ抵抗生 / 振動によるコナジラミ行動制御 / フェロモンブレンド / 構造色 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、バイオミメティクスの観点を導入した新規な側物保護法の確立であり、平成30年度(2018年度)から4年間で計画されている。令和2年度(2020年度)の主な成果は以下の通りである。 1)ダイズがハスモンヨトウに示す抵抗性の1つに非選好性がある。本研究では非選好性の有無を統計解析モデルで評価する手法と、その強弱をダイズ品種間・ハスモンヨトウ幼虫齢間で比較する手法を開発した。非選好性の有無は正規分布を用いて評価した。また、非選好性の強弱の比較には、分布最尤推定法から得られた切断前正規分布とF検定を用いた。これらの手法をエンレイ以外の 4 品種(タマホマレ(感受性)、ヒメシラズ(抵抗性)、IAC100(抵抗性)、ペキン(不明))に適用した。その結果、タマホマレ、ヒメシラズ、IAC100 の非選好性の有無を再評価するとともに、ペキンに非選好性があることを統計的に明らかにした。2)実験室内において様々な害虫の振動による行動制御の効果を示した。そして栽培施設においてコナジラミを対象とした振動による防除効果を検証した。またコナジラミにおける振動を用いた防除技術に関する特許取得し、論文を公表した。3)異なる成分・比率で構成されるフェロモンブレンドを利用するスズメガ科2種とヒトリガ科1種のそれぞれから性フェロモンの主成分に対する受容体候補遺伝子、および共受容体遺伝子の全長配列を決定した。分子系統樹解析およびモチーフ解析により、機能同定済の性フェロモン受容体との類似性を見出し、性フェロモン受容体として機能することを示す結果を得た。アフリカツメガエル卵母細胞における発現ベクターの構築を完了し、現在、フェロモンブレンドの構成成分への応答性評価を進めている。4)バイオミメティクス技術を利用し、タマムシの構造色の再現に成功した。昆虫の構造色を利用した新規な害虫制御方の開発に向けて、当たらな一歩となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昆虫の非選好性の有無を統計解析モデルで評価する手法を開発した。農業研究に数学的手法を積極的に導入し、得られた成果である。従来、非選好性の有無を客観的に判断する統計的手法はなく、本評価法は画期的な手法と位置づけられる。他の研究にも応用可能であり、汎用性も高い。 実験室内において、加振機を用いた害虫各種の行動反応(驚愕反応やフリーズ反応)が誘発される振動の周波数を特定したところ、一定範囲であることが示された。そして磁歪材料を用いた振動発生装置の試作機を用いて、トマト栽培施設においてコナジラミに対する密度抑制の効果を、前年度に続き示した。 前年度までのキマエホソバに加えて、異なる性フェロモンを用いるガ類3種の性フェロモン受容体候補の全長配列決定と配列解析を完了した。配列解析と発現量解析の結果、得られた候補は性フェロモン受容体として機能する可能性を見出し、フェロモンブレンドの構成成分の受容方式解明に向けた応答特性解析に着手している。 昆虫の構造色を利用した昆虫の行動制御技術は新しい試みである。これを可能にしたのは、生物学者と高分子材料科学者との行動研究である。
いずれもバイオミメティクスの観点から異分野連携を進め、農資源の機能性を高め、農業に技術革新をもたらす基礎研究である。進捗状況は、「当初の計画以上に進展している」と結論した。
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今後の研究の推進方策 |
・ハスモンヨトウ抵抗性品種ヒメシラズ、IAC100の抵抗性メカニズム解明を進める。最終年度には、非選好性(昆虫の行動に影響する因子)に加えて抗生性(昆虫の生理に影響する因子)も視野に入れて研究を進める。 ・害虫各種、及び加害対象となる作物の栽培環境に適合した、振動発生装置の開発を進めて、その防除効果を検証する ・フェロモンブレンドの構成成分に対する性フェロモン受容体候補の応答特性評価(選択性、濃度応答性、混合物への応答性)により、複数成分の受容方式を明らかにする。 ・バイオミメティクスをキーワードとした異分野連携を深化させ、持続型農業へ貢献する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で研究活動が制限されて、(また研究分担者・高梨の異動から)想定した消耗品費や旅費の使用が少なかった。しかしながら、ハスモンヨトウ抵抗性のダイズ品種が示す抵抗性の化学的基盤の解明、振動を用いた害虫防除に関して、新たな対象種も明らかとなる十分な成果が得られた。
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