研究課題/領域番号 |
18KT0044
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
矢部 光保 九州大学, 農学研究院, 教授 (20356299)
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研究分担者 |
田中 宗浩 佐賀大学, 農学部, 教授 (50295028)
李 哉ヒヨン 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (60292786)
高橋 義文 九州大学, 農学研究院, 准教授 (60392578)
安武 大輔 九州大学, 農学研究院, 准教授 (90516113)
山崎 博人 宇部工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (20300618)
森 隆昌 法政大学, 生命科学部, 教授 (20345929)
水田 一枝 福岡県農林業総合試験場, 生産環境部, チーム長 (90502419)
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | メタン発酵消化液 / 消化液濃縮 / 肥料成分分離 / 養液栽培 / 有機液肥 |
研究実績の概要 |
第1課題「肥料成分の分離濃縮回収とナノ分散液化による濃縮バイオ液肥の生産技術の開発」では、福岡県築上町とみやま市の消化液を用いてUF膜透過液を製造し、電気透析によるアンモニ態窒素の濃縮試験を行なった。その結果、3Vの電圧で18倍程度まで濃縮できたこと、電圧が高いほど最大濃縮率が大きくなること、濃縮率が高くなるほど脱塩液中のアンモニア態窒素濃度が高くなることを確認した。また、本試験で用いた電気透析装置のイオン交換膜では、リンが濃縮されずに脱塩液にそのまま排出されることも確認した。さらに、汚泥の微粉砕試験を行い、転動ボールミルのボール径や粉砕時間が、粉砕汚泥の粒子径に与える影響を分析した。 第2課題「濃縮バイオ液肥による栽培実証と食味試験」では、養液栽培用に高濃度アンモニア態窒素を硝酸態窒素に変えるため、冷蔵保存していた5,000ppm以上の高濃度アンモニア態窒素に耐性をもつ亜硝酸化細菌群の菌起こしを行なった。休眠中の固定化亜硝酸化細菌群の一部が目覚め、機能を再開していることを確認した。 第3課題「濃縮バイオ液肥栽培による農産物の評価と肥料マーケットへの展開」では、我が国では実用化されていない消化液の施設園芸利用の実態調査のため、韓国高原道鐵原郡金化農協のパプリカ農家とトマト農家を調査した。フィルターによって汚泥等が除かれた消化液が使用され、トマトの食味改善や低コスト生産に貢献し、農家経済の収益性か改善されていることを確認した。 第4課題「濃縮バイオ液肥の導入条件と化学肥料代替による経済・環境影響評価」では、福岡県の地域産業連関表を用い、みやま市で液肥利用がなされるシナリオの下に、予備的なシミュレーションを行い、その波及効果を計測した。また、濃縮バイオ液肥の生産と販売が拡大するために、生産コストの試算とビジネスモデルの検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主要成果としては、まず、汚泥の微粉砕試験では、ディスパー(羽根付き撹拌機)・転動ボールミル・媒体撹拌ミルで、運転条件を変えて微粉砕の比較試験を行い、扱いが簡易で、粉砕精度も高いで転動ボールミルで実験を行うことを決定した。分析結果は、1)粉砕時間が長くなるほど粒子径は小さくなったが、1時間を超えて粉砕してもあまり粒子径は小さくならない、2)ボール径が小さいほど粒子径も小さくなったが、ボール径が3mmから10mmにおいて、粒子径分布は重なっていたことを明らかにした。 次に、みやま市と築上町の消化液を用い、UF膜分離透過液の電気透析試験を行い、アンモニ態窒素の濃縮が可能であることを確認した。特に、築上町の透過液については、1)アンモニア態窒素が860mg/Lであったものが、2Vの電圧では6,000~7,000mg/L程度まで、3Vでは15,600mg/Lまで濃縮できた。2)脱塩液に溶解中の水溶性リンは、本実験に用いた電気透析装置のイオン交換膜では、濃縮されず、脱塩液に排出された。そのため、脱塩液からの効率的なリン抽出あるいは水処理が必要であることを明らかにした。 さらに、海外調査として、韓国高原道鐵原郡金化農協を訪問し、我が国では実用化されていない家畜糞尿原料由来の消化液を使用した養液土耕栽培農家を調査した。消化液は、120メッシュ・フィルター(目開き0.132mm)を透過させ、潅水に混ぜて使用し、不足する肥料分は化学肥料で補っていた。消化液は無料で提供されるので、農家は肥料代を63%~87%節減し、パプリカやトマトの甘みは増加していた。パプリカ農家は4年間、消化液を使用しており、専門家からは肥培管理の指導を受けていたことを明らかにした。 以上の研究成果により、概ね予想通りに研究は進展していると言ってよいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
第1課題「肥料成分の分離濃縮回収とナノ分散液化による濃縮バイオ液肥の生産技術の開発」では、コア技術として、1)蒸留装置を用いたアンモニア態窒素とカリウムの効率的な分離・濃縮、および2)アンモニア態窒素の濃度変化を分析する。特に、蒸留までの期間と蒸留後の期間で揮発程度を確認するとともに、次の工程に行くまでの保存状況(開放か閉鎖)で濃度減少がどの程度変化するかを分析する。また、汚泥の微粉砕において、粉砕条件(粉砕媒体の材質、サイズ、充填量、粉砕時間)が粉砕産物のリン酸イオン濃度に及ぼす影響を定量的に明らかにする。 第2課題「濃縮バイオ液肥による栽培実証と食味試験」では、高濃度アンモニア態窒素の硝酸態窒素への生物学的な硝化研究において、2018年度のモデル液を2019年度は実際のUF膜装置分離濃縮液へと変え、検討を進展する。また、より高濃度のアンモニア態窒素の硝化のため、フォトフェントン反応を用いた試験を開始する。さらに、製造された濃縮バイオ液肥を用いたポット栽培試験を行う。 第3課題「濃縮バイオ液肥栽培による農産物の評価と肥料マーケットへの展開」では、消化液を利用している農家や自治体の詳細な収益性分析を行うとともに、濃縮バイオ液肥に関する生産者の意識調査を実施する。 第4課題「濃縮バイオ液肥の導入条件と化学肥料代替による経済・環境影響評価」では、福岡県の地域産業連関表を用いた分析を精緻化するとともに、濃縮バイオ液肥のビシネスモデルについては、バリュープロポジションキャンパス等を用いて詳細に検討し、濃縮液肥事業がより実現可能なものにする。 なお、福岡県T町の協力を得て、日量1トンの実証研究施設の2019年度建設に向けて、基本設計を進めている。この実証施設が建設されるならば、実験室での分析結果が、実証規模で分析・検討されるので、その意義は大きい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は備品購入における手続きに想定以上に時間がかかったために、その使用による消耗品等の購入があまり行われず、予算残額が発生した。2019年度は、速やかに消耗品の購入を行う他、蒸留アンモニア分離の結果測定に必要なECメーターを購入して、研究計画にしたがって研究を実施する予定である。
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