研究課題/領域番号 |
18KT0045
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 史彦 九州大学, 農学研究院, 教授 (30284912)
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研究分担者 |
田中 良奈 九州大学, 農学研究院, 助教 (80817263)
森高 正博 九州大学, 農学研究院, 准教授 (20423585)
今泉 鉄平 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (30806352)
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2022-03-31
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キーワード | 農業工学 / 食用昆虫 / ノベルフード / サステイナブル / 経済評価 |
研究実績の概要 |
「次世代の農資源」として期待がもたれる食用昆虫の食料としてのポテンシャルを最大限に引き出し、エネルギー投入型の家畜飼育による動物起源タンパク資源 生産から環境負荷の小さい持続可能な生産体系への移行を目指すものである。“タンパク供給源としての食用昆虫が家畜の代替になり得るか?”という問いに対 し、技術、健康、経済、社会面からの多面的アプローチによりこの可能性を探り、科学的論証に基づく答えを導き出すことを目的とした。持続可能な食料生産手 段としての昆虫食の普及を目指し、以下の3課題に取り組んだ。 (1)持続可能型食用昆虫生産技術の確立では、昨年度、コオロギの乾燥解析に使用した減率第一段乾燥速度式を改良し、個体の表面積をモデルパラメータとすることで大きさの異なる個体にも対応した乾燥モデル式を提示した。また、乾燥粉末の悪臭の原因物質について調査を行った。GC-MS分析による匂い成分の同定では、最も強いピークとして酢酸(酢臭)が検出されたほか、トリメチルアミン(腐った魚様)、アセトアルデヒド(刺激的・青臭い)、イソ吉草酸(むれた靴下様)といった悪臭成分も検出された。さらに、高解像度X線CT撮影によりコオロギの乾燥過程における内部水分分布変化を可視化した。つぎに、(2)食品や飼料としての品質・安全性の評価では、市販のコオロギ粉末をパン生地に混ぜ、混合割合が品質について与える影響を調査した。その結果、X線CTによりコオロギパンの気泡構造を解析し、気泡サイズや気泡壁を表すパラメータを得た。これらのパラメータをもとに、コオロギ粉30%置換操作によってパン内部の気泡分布が粗になることを明らかとした。これは、(3)の消費者の意識調査と経済的・社会的評価のうち、意識調査の一部で もある。(3)については、パネルテストの実施計画を再設計し、次年度以降に実施を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)については、加工食材のひとつであるコオロギ粉末製品の乾燥特性テータの蓄積が進むとともに、サイズの異なる個体の乾燥解析に適用できる新たなモデルを開発できた。これによって、より精度の高い乾燥予測が可能となり乾燥装置の設計に資する成果を得た。基礎モデルが明らかになったことで、大型乾燥装置を想定した乾燥シミュ レーションが容易となった。また、学術的な視点からもコオロギの乾燥工程における水分分布変化が可視化され、高品質乾燥へのヒントを得た。この点で進捗は順調であるといえる。また、AIによる飼育環境と生育の解析についても複数個体の追跡が可能となった。(2)では、パン製造におけるコオロギ粉末の混合比がパン空隙構造に与える影響をX線CTにより解析し、コオロギ粉30%置換操作によってパン内部の気泡分布が粗になることを明らかにした。さらに、不快臭の原因物質を明らかにし、これを抑制するための餌の選定が必要であることを示唆した。この点は、(3)の消費者に受け入れられる昆虫食品を創造する上で貴重なデータとなった。以上より、本研究はおおむね順調に進捗していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)については、引き続きコオロギの乾燥条件を増やし、また、高品質な粉末製品を生産する乾燥条件・制御法について検討する。乾燥材料を粉末化する際の加工条件が粉末粒径分布特性に与える影響や、粒径がコオロギを原材料とする食品のテクスチャー等に与える影響を調査する。ここでは、昨年度末に導入した食品用3Dプリンターの導入にもチャレンジする。コオロギ飼育におけるAI追跡については、前年通りとする。(2)については、食用昆虫食品の品質調査のみならず、不快臭を抑制するための餌の工夫を行い、例えば規格外野菜など廃棄対象品の有効利用とその影響についてGC-MSを用いて引き続き調査したい。(3)については、農政経済を専門とする研究者が中心となり、消費者アンケートによる意識調査を実施し、普及の可能性を探りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は設置場所検討のため飼育関連装置の購入を見送り、次年度以降に買い揃えることとした。また、消費者を対象とするアンケート調査ならびに海外での調査を年度末に計画していたが、緊急事態宣言を受け次年度以降送りとした。次年度は、飼育関連装置の購入などで繰り越し分を使用する計画である。
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