研究課題/領域番号 |
18KT0046
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
志和地 弘信 東京農業大学, 国際食料情報学部, 教授 (40385505)
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研究分担者 |
朴 炳宰 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (00538879)
遠城 道雄 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 教授 (60194651)
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2022-03-31
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キーワード | 作物学 / 微生物工学 / 育種学 / 植物生育促進細菌 / ヤムイモ / イネ |
研究実績の概要 |
本研究はヤムイモに共生する窒素固定細菌を用いた作物栽培技術の開発を目指したものである。ヤムイモとはヤマノイモ科の植物の食用種を指す。開発途上国ではヤムイモは地域の食料として重要な作物であるが、その重要性が熱帯地域以外では適切に認識されておらず、研究や品種改良の対象とされてこなかった。申請者らは科学研究費の助成(2006~2015年)を受けて国際熱帯農業研究所(International Institute of Tropical Agriculture:IITA ナイジェリア)とヤムイモに関する共同研究を行ってきた。そして、高収量品種の育成過程で窒素がほとんどない土壌でも良く生育するヤムイモ系統を発見した。この系統は平成27-29年挑戦的萌芽研究(15K14680)において、ヤムイモが根粒菌などの窒素固定細菌と共生していることを世界で初めて確認し、窒素固定の寄与率が38%以上あることを明らかにした。ヤムイモの生育に窒素固定細菌が関与することはこれまでに報告がなく、挑戦的萌芽研究では3属の根粒菌と8属の窒素固定細菌が分離された。さらに当該特設分野研究では、ヤムイモの一種である16系統のダイジョと3系統のトゲイモについて窒素固定細菌の分離・同定を試みた。その結果、窒素固定細菌の18属22種が分離された。ダイジョから分離された窒素固定細菌のRhizobium sp.は、ゲノム解析からマメ科の根粒細菌の仲間ではあるが、ヤムイモに内生するために特化した新種の細菌であると推定された。 本研究はヤムイモに内生する窒素固定細菌の能力や特性を明らかにして、作物生産における窒素固定細菌の利用を確立するとともに、農業生産における窒素固定エンドファイトの利用による持続的な食糧生産技術の開発を目指す、農学と微生物工学を融合したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナイジェリアのIITAで栽培されたホワイトヤムの8系統(ヤムイモの一種)にも多くの種類の窒素固定細菌が共生していることが確認された(未発表)。そこでホワイトヤム6系統について、窒素安定同位体自然存在比(δ15N)を比較したところ、空中からの窒素の依存率は品種によって異なることが明らかになり、窒素固定細菌と共生の親和性の高い品種があり、育種素材としての利用が考えられた。 ダイジョとトゲイモから分離された7種の細菌(Agrobacterium sp. 2株、Enterobacter sp.、Pantoea sp. 2株、Mesorhizobium sp.、Lelliottia sp.)は植物生育促進・窒素固定細菌(Plant Growth Promoting Bacteria: PGPB)として特許申請を行った(特願2019-209500、特願2020-193418)。 Agrobacterium sp.をダイジョに接種した結果、イモの重量及び葉の窒素含有量が大きくなったことから、Agrobacterium sp.が生育に作用したものと考えられた。さらにAgrobacterium sp.の他にMesorhizobium sp.、Pantoea sp.、Enterobacter sp.の細菌をそれぞれイネに接種してその効果を調べた。その結果、イネの幼苗は細菌の種類によって効果が異なるもの生育が促進された。PGPBは種の異なる作物にも感染することが判った。 ヤムイモのメタゲノム解析法を確立し、細菌のメタ16S解析を行った結果、細菌は5属のProteobacteriaが主であり、これらがダイジョの生育促進に寄与していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
PGPBが特定され、細菌叢が明らかになったことから細菌を用いた作物栽培への実用的な技術開発に研究の主体を移していく。ヤムイモから分離した窒素固定細菌をイネに接種して、窒素の固定能力を調べ、細菌の農業資材としての汎用性を検討する。ヤムイモの細菌フローラが明らかになったことから、これまでに分離・同定した細菌を組み合わせて、生物肥料資材としてのパッケージを作成し、接種試験を行っている。また、アフリカのホワイトヤムについても細菌叢が明らかになったことから、窒素固定細菌叢のパッケージを作成し、ナイジェリアで接種試験を開始する。さらに、ヤムイモから分離した窒素固定細菌はイネ科に広く感染する可能性があり、生物資材として汎用性の高い細菌グループを明らかにしたい。 窒素固定細菌は東京農業大学の菌株保存室に登録し、遺伝資源としてデータベース化を行っており、民間企業へ譲渡を開始した。
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次年度使用額が生じた理由 |
ナイジェリアへの出張を予定していたが、コロナ禍によりキャンセルになり、国際熱帯農業研究所での実験ができなかったため。ナイジェリアでの研究は次年度の計画に送り、日本でのゲノム解析調査を前倒しで実施する。
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