研究課題/領域番号 |
18KT0052
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
工藤 尚悟 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (20755798)
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | 高齢化 / 途上国 / アジア / アフリカ / 社会経済システム / 演習教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、途上国における急速な高齢化を21世紀における新しいグローバルイシューとして捉え、その対応に求められる新しい社会経済システムのモデル構築に向けた議論を社会起業家を含む共同研究チームの視点から提起することを目的としている。本研究は、社会変革の担い手となる実社会のアクターとの知見共創を行うトランスディシプリナリー・アプローチを方法論として用いる。 初年度は、はじめにアジアとアフリカ地域の中心とした人口動態に関するデータ収集とSDGs関連指標に関する文献調査を行った。これより、アジアでは2030年以降に高齢化が多くの国で顕在化し、特にタイとベトナムにおいて65歳以上の高齢者人口が全人口の15%から20%ほどになることが確認された。 次に、社会起業家をメンバーに含んだ共同研究チームを構成した。東南アジアを拠点として人材育成事業に取り組む教育ベンチャーと研究協力をしていくことを確認し、途上国地域における高齢化についての勉強会を実施した。また、アフリカ地域の高齢化について議論を行うため、南アフリカフリーステート州クワァクワァ地域において「コミュニティ開発における世代間関係性」をテーマとした現地調査を実施した。この調査により、土着の部族に由来する地域ガバナンス(伝統システム)と近代化によってもたらされた自治制度(モダンシステム)の間に価値観の相違が存在し、それぞが異なる世代を象徴していることが確認された。 本事業は、研究を通じて得られた高齢社会に関する知見を活かして、高齢社会をテーマとした演習教育の開発にも取り組んでいる。これについては、全国で最も高齢化率が高い秋田県をフィールドに、「縮小高齢社会における地域づくり」をテーマとした演習を実施した。本演習は主に大学院生を対象としており、高齢化に伴って生じる様々な地域課題に関する理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の平成30年度は、本研究の方法論であるトランスディシプリナリー・アプローチに不可欠である社会アクターとの協力体制を構築することができた。具体的には社会起業家との共同研究チームを構成し、途上国の高齢化が将来的なグローバルイシューとして重要なテーマであることを勉強会を通じて共有できた。この際、先行研究のように高齢者を主な研究対象とするのではなく、高齢化していく社会を対象とし、高齢社会という新しい社会フェーズに求められる社会経済システムを探求することが本研究の主眼であることを確認している。また実際に南アフリカフリーステート州クワァクワァ地域にて世代間関係性を切り口としたフィールドワークを実施することができ、これを通じて途上国のコミュニティ開発の文脈においても高齢化が重要な視点であることを確認できた。次年度は東南アジアにて主に地域単位でのガバナンスと高齢化のテーマをフィールドワークを通じて探求していく予定である。このように研究の次の方向性を掴むことができているため、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に社会アクターを含む共同研究チームを構成し、アフリカ側でのフィールドワークを実施することができた。これをアジア側の途上国の文脈に展開するために、次年度は東南アジアにおいて地域単位のガバナンスと高齢化をテーマとするフィールドワークを実施する。 また、初年度に引き続き、高齢化とSDGsに関するデータ収集を行う。特に各国のなかの地域単位でのデータを収集することに務め、都市と農村地域での高齢化の影響についての全体像を掴む。これに加えて、次年度は、フィールドワーク、文献調査、高齢化に関するデータ収集と分析を統合しながら、途上国における高齢化が進んでいく際に求められる新しい社会経済システム像についての議論を深めていく。年度の取りまとめの作業として、上記のステップで得られた知見を用いて、アジアをフィールドとした高齢社会に関する演習教育のコンテンツ開発に取り組む計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に実施した南アフリカでのフィールドワークが現地側のスケジュールと季節の関係で年度末の時期となった。初年度の計画のなかでこのフィールドワークが最も予算の必要なものであったためこれに向けて予算を用意していたが、現地での滞在費と移動費が予想以上に抑えることができたため、結果として未使用額(90,364円)が発生してしまった。 次年度についてはフィールドワークの実施時期を年度の中盤とすることで、海外への渡航が発生した場合にも年度内に予算を計画的に使い切れるように十分に留意する。初年度の未使用額については、次年度に計画しているフィールドワークのための予算として活用する。
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