研究課題/領域番号 |
18KT0052
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
工藤 尚悟 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (20755798)
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | 縮小高齢社会 / 地域づくり / コミュニティ開発 / サステイナビリティ教育 |
研究実績の概要 |
本研究は今後2030年以降に世界的に広がることが予測されている高齢化をグローバルイシューと捉え、この新しい状況下において必要となる社会経済システムのあり方を探求することを目的としている。このテーマに取り組むために、社会起業家を含んだ共同研究チームを構成し、学術以外の社会的アクターと協働するトランスディシプリナリー・アプローチを方法論として採用している。 今年度は、本プロジェクトにおける研究項目の1つである「高齢社会を題材とした教育コンテンツ開発」に重点的に取り組んだ。具体的には、全国で最も高齢化率と人口減少率の高い秋田県にて、「縮小高齢社会における持続可能な地域づくり」を題材としたフィールド演習を計画・実施した。演習には代表者が所属する東京大学大学院新領域創成科学研究科の修士学生3名とポスドク研究者1名の他、チュラロンコン大学(タイ)、マレーシア・サインズ大学(マレーシア)、ケープタウン大学、フリーステート大学(南アフリカ)からそれぞれ若手研究者が1名ずつ参加した。演習では、縮小高齢化が進む農山村地域での移住起業家による活動がもたらす質的変容をテーマに、特に過疎化の進行と伴に増加傾向にある空家等の遊休施設を利用してカフェやアートスペースなどのサードスペースを創造し、運営している起業家にインタビュー調査を行った。 経済規模が縮小している地方に敢えて飛び込み、地域資源を活用しながら企業活動を行っているインフォーマントが考える縮小高齢社会における社会経済システムについての考えを明らかにした。これと同時に、実施したフィールド演習は、拡大する人間の生産と消費と生態系のバランスが中心テーマとされることが多いサステイナビリティ教育の分野において、縮小高齢社会という社会経済活動が縮小する状況におけるサステイナビリティをテーマとする新しい形のサステイナビリティ教育を提示することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に行った人口動態に関するデータ収集とSDGs関連指標に関する文献調査に続き、今年度は高齢社会を題材とした教育コンテンツの開発を実施することができたため、プロジェクトは概ね順調に進展しているといえる。具体的な教育コンテンツとして、全国で最も高齢化率と人口減少率の高い秋田県において、移住起業家の活動を題材としたフィールド演習を計画・実施することができた。演習においてインタビュー調査の対象となった移住起業家は、地域経済が縮小傾向にあるなかに飛び込み、空家等の遊休施設を活用してサードスペースを創造している場合が多く見られた。これらの起業家が考える、縮小高齢社会という社会経済活動が縮小する状況における地域のサステイナビリティについて明らかにすることができた。 また、このフィールド演習には、マレーシア、タイ、南アフリカの若手研究者に参加し、それぞれの国の高齢化や農村地域の開発課題と照らし合わせながら議論を深めることができた。また、これらの海外からの参加者があったことによって、研究者がそれぞれの国で持っているフィールドにて、同様の高齢化をテーマとしたフィールド演習の実施を構想することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究活動を通じ、人口動態とSDGs関連指標を通じて途上国地域における高齢化の全体像を把握し、高齢社会を題材としたフィールド演習の型を創造するところまで進めることができた。今後の推進方法としては、今年度のフィールド演習に参加のあったタイ、マレーシア、南アフリカの研究者がそれぞれの国で有するフィールドでの演習の展開可能性を探ると伴に、今年度のフィールドワークとして当初予定していた地域単位でのガバナンスと高齢化をテーマとする現地調査を実施する予定である。 高齢化が社会経済システムのどのような部分により強く影響するのかは、それぞれの国の社会課題や文化的状況に関連していることが想定されるため、高齢社会を題材としたフィールド演習のデザインでもそれぞれの地域において関連性の高いテーマの探求に留意したい。次年度後半には、これらのフィールドでの研究活動にて収集したデータの取りまとめと伴に、高齢社会において求められる新しい社会経済システムについての提言をとりまとめる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に実施した高齢社会を題材としたフィールド演習において、当初本予算からの招聘を予定していた研究者の参加について先方負担での参加への変更となり、その分が全体の予算計画のなかで未使用の形となった。結果として76,746円の未使用額が発生してしまった。次年度については、タイまたはマレーシアでのフィールド演習を予定しており、この経費の一部を本プロジェクトより支出する予定である。この際に予定額と実際に使用する額にずれが生じる可能性があるため、十分に留意しながら運用するように努める。
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