本研究はOECD開発援助委員会(DAC)を構成する援助国、その援助を受容する相手国の過去30年にわたる援助データと関連するデータを融合させ、計量分析の結果、以下のような知見を得た。まず、開発援助政策は、援助国の対外政策、経済政策、所得再分配を理念とする福祉政策の国際的延長でありつつ、政権政党の党派的理念によっても左右されることを確認した。そのため、DACが世界共通の援助政策綱領を作成し、適宜更新しているにもかかわらず、そのDAC構成国であっても上記の決定因に依拠して国家レベルで援助政策を実施するため、綱領に即して援助政策を実施することは難しいことが分かった。一方、上記の国家レベルの要因が援助政策のパターンであり、グローバル・スタンダードであるという含意が引き出せる。 しかし、多くの研究で援助政策が受容国の経済成長や貧困削減に寄与するという結果が得られていない中、本研究は多様な援助政策の中でも教育援助が製造業の輸出量の増加と相乗効果を発揮して受容国の教育向上(高校レベルの教育修了者の割合)に対して正の効果をもたらしていることを検証した。これは受容国の若者が輸出産業の高賃金に魅せられ中等教育を受けるという誘因が働くことに原因がある。この知見からは大規模な援助資金が期待できない状況で、援助国は自由貿易協定(FTA)等による輸出振興とバラバンスを取りながら教育向上を支援することによって将来の経済発展に寄与できることを含意として引き出した。この結果は英語論文としてまとめ2020年の世界国際関係学会(ISA)で発表し、2021年夏までに修正を重ねて有力な国際学術誌に投稿した。現時点で公刊に至っていないが、研究期間終了後も投稿を継続する予定である。また、環境援助による効果は、サーベイ実験によって気候変動問題において確認でき、その結果は3編の英語論文として査読付きの国際学術誌に掲載した。
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