研究課題/領域番号 |
18KT0076
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研究機関 | 鹿児島純心女子大学 |
研究代表者 |
野村 亮太 鹿児島純心女子大学, 人間教育学部, 講師 (70546415)
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | 劇場 / 観客間相互作用 / 共通入力 / 瞬目 / 笑い / 話者の印象評定尺度 / シミュレーション / 非線形時系列解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,劇場で行われる表現者(以下,演者と呼ぶ)と観客群のあいだに生まれるコミュニケーションを(1)笑いと情動の伝播および(2)認知過程を反映した身体動揺の協調という複数のレイヤーの重ね合わせとして統合的に理解することである. 本年度は,劇場のコミュニケーションを「演者から賦活作用を受ける観客群」と「観客群の状態に応じて入力を変える演者」という形式で抽象化したこの数値モデルについて数値シミュレーションを行い,笑い声が同期する条件を示した.この知見は,同時に演者から観客群への共通入力による同期という枠組みでも見ることができる.こうした枠組みをさらに発展できるよう,まずダイナミクスがよく知られている力学系を複数用意し,それらの出力である点過程時系列から,共通入力を再構成する手法を開発した.一定条件で再構成が可能であることが示された. また,実験室で行った心理実験により,映像を視聴する者の内容の理解度を瞬目から推定することができることを示した.具体的には,理解度が端的に異なる3群に同一の映像を見せ,視聴者の情報処理に関連する行動に差がみられるか否かを検討した.測度となる行動として,急速連続瞬目(Rapid Serial Blinks)を用いた.瞬目行動には個人差が大きいため,従来の瞬目群発の定義とは異なり,RSBは,ある連続する瞬目間隔が経験分布からランダムシャッフル・サロゲートデータ法により作成された個人閾値よりも短い時間で生じると定義した.理解の程度が低い群のみRSBが多く発生しており,この測度は観客の情報処理にも反映していると考えられる. また,演者の印象評定尺度を作成し,多様な参加者に評定してもらったところ,評定値は評定者の年齢,性別,落語の視聴経験との相関はなく,一貫した印象評定ができることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,概要に示した通り,(1)出力点過程時系列を利用した共通入力の再構成手法の確立,(2)観客の瞬目間隔指標による内容理解の程度の推定,(3)演者の印象評定尺度の作成と妥当性の検討を行った.以上の研究は,それぞれ海外の査読論文1本,国内の査読論文1本,国内学会での発表4件として成果の発表を行った.加えて,年度末時点で,演者の印象評定尺度を用いた実験については,実験を終え投稿準備中である.以上の進捗状況は,当初予定していた計画以上の成果であり,当初計画以上に進展しているといえる. 一方で,研究代表者の研究機関異動に伴い,心理実験については新たな実験施設での実施が必要になった.このため,心理実験に関しては研究計画から多少の遅れが生じている.現時点では,予備実験の段階にとどまっている.また,次年度にも研究代表者の研究機関の異動が決定しており,改めて実験を行う必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
観客の出力(行動)データを利用した共通入力の再構成については,引き続き遂行することで,昨年度と同等かそれ以上の成果が期待できると予想される. 一方,心理実験に関しては,2020年当初からの新型コロナウィルス感染症の影響を受けて,人を対象とした実験を実施できるか否かが不明である.少なくとも年度前半には,実施ができないものと予測して,コンピュータ上で実現できる数値実験に切り替えて実施していく.具体的には,本研究期間以前も含めて,これまで研究代表者が蓄積してきた落語を視聴する観客の瞬目データに対して,非線形時系列解析を施すことにより,演者-観客群間のコミュニケーションについて知見を得ることを目指す.また,複数の観客の瞬目を自動検出するプログラムを作成し,研究の効率化を図ることで,当初計画していた程度の成果につながるように研究を推進していく. また,当初発表予定だった国際学会が延期・中止されていることを鑑み,研究成果は査読論文のかたちで発表するよう変え,論文執筆を重点的に行ことにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,2019年度は心理実験および質問紙調査におけるデータ入力作業のために,アルバイト雇用を予定していた.研究代表者の機関異動とそれに伴う倫理審査等の準備のため,当初予定していた実験が予備実験に止まった.人件費・謝金の支出額が少なくなったことにより,次年度使用額が生じた.
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