最終年度として、これまで行ってきた考察をまとめた。古代メソポタミアの宗教的職能者アーシプの儀礼に注目し、彼らが行った儀礼文書を解読していくと興味深い文言が見いだされる。たとえば「アサルヒ、エリドゥの息子が、唱えごとを唱えた。」「その唱えごとは私のものではない。/エアとアサルヒの唱えごとであり、神々のマシュマシュであるマルドゥクの唱えごとである。/彼らが(それを)唱え、(そして)私が繰り返した。」といった文言がある。ここから、アーシプの唱えごとは彼らの守護神、知恵の神エンキ/エアの言葉であり、エンキ/エアから、およびその息子から発せられたものとみなされていたことが読み取れる。こうしてアーシプの言葉には神性が宿り、隠された教えや知恵が含まれているととらえられる。メソポタミアの宗教言語に神の力が込められているといえるのである。 他方、日本の祭文にも神話的な表象が含まれるものが認められる。いざなぎ流の祭文には、言葉によって世界が作り出されるという考え方があり、言葉への信仰がうかがわれる。言葉には何かを生みだしたり、悪を排除したりする力があるとされている。 異なる宗教実践を比較することにより、宗教言語としての儀礼の言葉には、創造性や共在性が込められていることがより説得性をもって明らかとなった。
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