本研究は,子どもの日常生活技能の発達過程において,群生環境と子どものあいだで形成される多様な関係がどのように推移するのかを縦断的に記述し,状況を反映してゆらぐ子どもの注意と行為が群生環境においてどのように方向づけられているのかを理解することを目的とするものである. この目的に向け,本研究では日本の保育施設における食事場面等の子どもの日常行為のビデオ観察を行った.0歳児クラスの乳児の食事場面について(A)養育者による介助、(B)乳児のスプーン使用、(C)乳児が養育者に向ける視線という三項の時間的関係を分析し,次の結果を得た.(1)養育者は環境の配置を調整し、乳児が自分で食べることを可能にする卓上の機会を絶え間なく調整しており、こうした調整の直後に乳児がスプーンを食物に向ける行為が偶然より多く生起していた。(2)乳児は食事場面では養育者の「顔」よりも「手」を見ている時間がはるかに長く、さらに養育者が卓上の調整を行っているときは他の状況よりも多く養育者の「手」を見ていた。(3)食事場面で乳児が養育者の「顔」を見る状況は、「手」を見る状況とははっきりと異なっており、乳児が自分で食物をスプーンで口に運んだ直後か、食事と無関係な遊びにスプーンを用いた直後に、自分の行為を養育者が見ていたかを確かめるように,養育者の「顔」を見ていた。 これらの結果は、食事場面で養育者の「手」に向ける視線と「顔」に向ける視線が異なる役割を担うことを示すとともに、乳児がひとりでスプーンを食事にふさわしいかたちで使うようになる過程において、(A)養育者による周囲の機会の調整と、養育者の手に乳児が向ける注意の結びつき、(B)乳児の行為に反応を示す養育者と、養育者の顔に乳児が向ける注意の結びつきという、養育者の行為と乳児の注意の間の二種類の双方向の結びつきが存在するという,既存の知見を補完する知見を得た.
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