研究課題/領域番号 |
18KT0089
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
石原 亨 鳥取大学, 農学部, 教授 (80281103)
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研究分担者 |
大崎 久美子 鳥取大学, 農学部, 講師 (20432601)
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | 廃菌床 / 抵抗性誘導 / 自然免疫 / ファイトアレキシン / スクロース / 糖 / イネ |
研究実績の概要 |
近年、きのこの多くは菌床栽培により生産されている。きのこ収穫後の菌床(廃菌床)には使い道がなく、多量の廃棄物となる。この廃菌床の利用法を模索する中で、廃菌床を作物に処理することで抵抗性を誘導し、病害防除に利用できる可能性が見出された。これまでに、廃菌床の熱水抽出物をイネの葉に噴霧すると、抗菌性二次代謝産物ファイトアレキシンが蓄積し、いもち病菌に対する抵抗性が増強されることが分かっている。そこで、本研究では、廃菌床に含まれる抵抗性誘導物質の単離・同定を目指した。 廃菌床に蒸留水を加えオートクレーブし、熱水抽出物を調製した。これをイネ(日本晴)の幼苗第3葉に滴下処理し、72時間後に葉を80%メタノールで抽出した。イネのファイトアレキシンであるモミラクトン AおよびB、オリザレキシン A、サクラネチンをLC-MS/MSのマルチプルリアクションモニタリングにより定量した。 ブナシメジ廃菌床熱水抽出物を酢酸エチルで分配抽出し、水層を活性炭カラムで分画した。得られたファイトアレキシン誘導活性を示す画分を、HILICカラムを用いた HPLCによりさらに分画したところ、活性画分からスクロースが単離された。そこで、ブナシメジ廃菌床熱水抽出物中に含まれる糖類をLC-MSで定量した。すると、スクロースが20 mM程度の濃度で含まれており、グルコースとフルクトースも検出された。続いて、これらの糖類をイネの葉に処理し、ファイトアレキシンの蓄積を調べた。糖類は、いずれもファイトアレキシンの蓄積を強く誘導した。したがって、これらの糖が廃菌床熱水抽出物に含まれるファイトアレキシン誘導活性物質の一つであると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究から廃菌床抽出物をイネに処理するとファイトアレキシンの蓄積を誘導し、結果として植物の抵抗性が増大することが見出されてきた。本研究では、その生化学的メカニズムを3年間で解明することを目的としている。今年度はその中でも、ブナシメジ廃菌床の熱水抽出物に着目し、ファイトアレキシンの蓄積を誘導する化合物の単離精製を目指した。その結果、スクロースがファイトアレキシン誘導物質の一つであることを見出すことができた。活性物質は親水性が高いことがわかっており、このような物質の精製は一般には簡単ではないが、順調に分画を進めることができ化合物の単離と構造の解明に至った。このことから、本研究は極めて順調に進捗しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
ブナシメジ廃菌床に含まれるファイトアレキシン誘導物質として、スクロースを同定することができたが、スクロースのみでは、実際の廃菌床抽出物と比べて活性が弱い。そのため、ブナシメジの廃菌床の熱水抽出物にはスクロース以外にも抵抗性を誘導する化合物が含まれていることが想定される。今年度は、スクロース以外の物質について単離・精製をすすめる。 一方で、シイタケの廃菌床には、スクロースをはじめ、糖類はほとんど含まれていない。にもかかわらず、イネに処理するとファイトアレキシンの蓄積を強く誘導する。したがって、シイタケ廃菌床に含まれるファイトアレキシン誘導物質は糖ではないと推定している。そこで、今年度は、シイタケも対象として活性成分の分画を行う。 これらの実験結果から、廃菌床に含まれる抵抗性誘導物質の全体像に迫りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、ブナシメジ廃菌床からの活性物質の単離・精製に注力し、シイタケなど他のきのこ由来の廃菌床抽出物を対象とした実験を次年度に持ち越すことにしたため、次年度使用額が生じた。 次年度は、シイタケからの化合物の分画・精製、構造解析に着手するとともに、ブナシメジから見出されたスクロースによるファイトアレキシン誘導のメカニズムの解明のため、マイクロアレイを利用した遺伝子発現の解析や、植物ホルモンに対する影響を解析行う。この目的のため持ち越した予算を使用する。
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