研究課題
きのこ栽培に使用された廃菌床は使い道が乏しく、大量に破棄されている。廃菌床を植物の病害抵抗性を向上させる農業資材として活用することを目的に、廃菌床熱水抽出物に含まれる抵抗反応誘導物質を探索してきた。昨年までの研究で、廃菌床に含まれるグルコースやスクロースなどの糖がイネのファイトアレキシンの蓄積を顕著に誘導することが明らかにされた。この結果に基づき、今年度は、糖類と廃菌床抽出物がイネの遺伝子発現に及ぼす影響をマイクロアレイ解析によって比較した。その結果、グルコース処理によって発現量が変化する遺伝子の85%がブナシメジ廃菌床抽出物の処理によっても発現が変化することが見いだされた。このような遺伝子には、ファイトアレキシンの生合成遺伝子も含まれていた。一方で、ブナシメジ廃菌床熱水抽出物で発現が変化する遺伝子の62%は、グルコース処理によって発現量が変化しなかった。このことから、グルコースはブナシメジ熱水抽出物に含まれる抵抗反応誘導物質の一つであるが、ブナシメジ熱水抽出物に含まれるそれ以外の物質も抵抗反応の誘導に関連している可能性が示唆された。さらに、さまざまな糖を用いてファイトアレキシン誘導活性の比較を行った。5炭糖以上の大ききをもつ糖がファイトアレキシンの蓄積を強く誘導したが、糖アルコールにはほとんど活性がなかった。1-メチルグルコースも効果を示した。この結果から、ファイトアレキシンの誘導には、一定以上の大きさが必要であるが、糖の還元性は関係しないことが明らかになった。セルラーゼやペクチナーゼといった細胞壁を分解し糖を遊離させる酵素がファイトアレキシンの蓄積を誘導したことから、糖によるファイトアレキシンの誘導は、植物細胞が細胞壁のダメージを遊離の糖を介して検出した結果であると推定された。
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