耕作放棄地となった棚田を次世代の農資源として活用する一手法として、棚田石垣を活用した園芸ハウス(石垣蓄熱ハウス)を提案した。南面のみを採光部とし北面に位置する石垣部分を蓄熱媒体としたこのハウスは、わずかな投入エネルギーでの作物栽培が実証されている。本研究では、中山間地域での新たな園芸モデルの構築を目指し、石垣蓄熱ハウスの基本特性の把握と温熱環境特性の解明、未利用資源の利用可能性、有望栽培品目について検討した。 連年にわたる石垣蓄熱ハウスの環境計測により、厳冬期の保温性、立地条件、被覆条件による特性が明らかとなった。夏季の暑熱対策として行った屋根面被覆資材への散水も大きな効果があり、その水源として山中の湧水利用が可能であることも確認された。その結果、石垣蓄熱ハウスでは、冬季の無加温栽培が可能であり、低コストで施設運営ができることが明らかとなった。 一方、ハウス加温燃料として期待された未利用資源である木質バイオマスは、その回収コストや暖房機の導入コストから、石垣蓄熱ハウスへの導入は不適切であると考えられる。 また、栽培品目については、トマト、マンゴー、パパイア、シイタケ等、多岐にわたった。しかし、いずれの品目も産地を形成する量の確保は難しく、出荷体制を含めて検討が必要である。ただし、トマトについては地元の仁淀川町でのふるさと納税返礼品となっており、今後の生産拡大が期待される。 以上、本研究の結果から、石垣蓄熱ハウスの有用性と課題点が明らかとなり、中山間地域の新たな園芸モデルを形成する上での基礎資料となる。
|